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第4GKから7年目のルヴァンMVP。
新井章太と川崎が描いたストーリー。
posted2019/10/29 18:00
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph by
Kiichi Matsumoto
令和最初の頂を決めるルヴァンカップファイナルは、壮絶な死闘となった。
90分間を終えて、スコアは2-2。延長戦でも互いに1点ずつを奪い合い、120分でも決着はつかず。決着はPK戦へと委ねられた。
「ショウタくん、ここで止めたらストーリー完成やで」
運命のPK戦が始まる直前、新井章太はチームメートからそんな声をかけられたという。
声の主は、登里享平だった。
10年前の2009年のナビスコカップ決勝では、新人ながら試合終盤に出場。敗戦の悔しさをピッチで噛み締めている。クラブ在籍歴で言えば、2010年に入団した小林悠よりも長い。同期入団のGK安藤駿介と並び、今やバンディエラの中村憲剛に次ぐ古株である。
この決勝では右サイドバックで先発し、前半に相手選手との接触で太ももを強打するなど満身創痍になりながらも、120分間、ピッチに立ち続けた。
試合後のミックスゾーンでは、いつものように疲労困憊であることを感じさせない明るい表情で、話し続けてくれた。そこで新井の話題を聞いてみたところ、こうおどけた。
「PK戦前のショウタ君に声をかけたら、その言葉がなんかゾワッと来たみたいで(笑)。『お前の言葉が一番きたよ』って言っていましたね」
「ここで止めたらストーリーが……」
その言葉は、どれだけ新井の心に響いたのか。
試合後、囲まれていた報道陣の輪が解けた瞬間を狙って新井に尋ねてみると、自分自身をより奮い立たせるものだったと同意してくれた。
「めちゃくちゃ良い言葉だったんですよ。ここで止めたらストーリーが出来上がるぞって、ノボリが(PK戦の前に)言ってくれた。『間違いないな。そうだな』って思って。ブワーッと(アドレナリンが)出てきたんです」
こうして新井章太は、2本のPKストップの活躍で大会MVPに輝いた。苦労人と呼ばれた男が悲願のカップタイトルをもたらすという、あまりに見事なストーリーだった。