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想像を遥かに超えたサービスエース。
19歳西田有志に、仲間も世界も慄く。
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byKiyoshi Sakamoto/AFLO
posted2019/10/18 19:00
時速120kmを超えるサーブは大きな武器。キレのあるスパイクも含め、今大会で世界レベルにあることを知らしめた。
出たくて仕方なかったアメリカ戦。
楽しそうに躍動する19歳。それも事実だが、経験を重ねるたび、西田は苦しんでもいた。
最初の壁は前半戦だ。「出たい、出たい」と願い続けて来た大会4日目のアメリカ戦。西田はベンチ入りメンバーから外れた。
チーム事情を加味すれば、15日間で11試合を戦うハードスケジュールと、ワールドカップの目標は世界を知ることではなくメダル獲得であること、すでに東京五輪出場を決めているアメリカとはおそらく予選リーグも別組になることも考えれば、ここで力を使い果たして残りの試合に心身のダメージを残すのはプラスにならない。むしろそれよりも翌日のアルゼンチン戦を万全の状態で戦うことのほうがベストというのが、フランスやポーランドなど各国代表を率いた経験を持つフィリップ・ブランコーチの判断に基づく決定事項だった。
とはいえ、最後に結果を出せばいい、そうは思っていても、目の前に強い相手がいるのだから出たい。むしろ、出たくて仕方ない。
「正直、自分はまだ子供なので、どんな相手にも『勝ちたい』しかないんです。だから貪欲に行くしかないと思うけれど、チームで決めて、納得したこと。自分がどれだけ冷静にいられるか、というのをずっと意識するようにしていました」
試合を外から見て学んだこと。
我慢した甲斐は、確かにあった。
冷静に試合を見ようと心がければ、世界トップと称されるアメリカのディフェンスシステムや、サーブ戦術。やみくもに勝負するだけでない、ブロックやレシーブに対する駆け引き。目の前の試合には、これからへつながるいくつものヒントがあった。実際に福岡から広島へ会場を移した後半戦では、学びを活かしたブロックを利用してタッチを取る攻撃や、ブロックの後ろに落とすフェイント。ただガムシャラに攻め込むばかりではない、新たな発想や攻撃パターンも西田にとっては武器になった。
ただ、「アメリカ戦を見に来た観客の子供が『西田が見たかった』と言っていた」と聞くと、少し胸が痛んだ。
「アメリカ戦のチケットを持っていた人で、(翌日の)アルゼンチン戦も見られた人がどれだけいたかわかりません。でも、だからこそ、みなさんが満足できるような結果、プレーを100%するだけ。この先何があっても、絶対下を向いちゃダメだと思いました」