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想像を遥かに超えたサービスエース。
19歳西田有志に、仲間も世界も慄く。
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byKiyoshi Sakamoto/AFLO
posted2019/10/18 19:00
時速120kmを超えるサーブは大きな武器。キレのあるスパイクも含め、今大会で世界レベルにあることを知らしめた。
大きな壁となったエジプト戦。
その後も快進撃は続き、24年ぶりの4連勝をかけたエジプト戦。「勝って当然」と目される相手との一戦が、西田にとって、最も大きな壁となった。
エジプトには、西田と同じ左利きで2003年から5度目のワールドカップ出場を果たした主将でエースのアハメド・アブデルハイがいる。サーブの軌道やスパイクのコース。他国と比べれば左利きへの対策は練りやすく、西田が得意とするスパイクコースに対し、ブロックとレシーブできっちり策を講じて来た。ブロックを避けようと打てば簡単にレシーブされ、そこも避けようとして無理に打てば、アウトやネットにかかる場面が増える。
サーブもスパイクも、決して悪いところばかりではないのだが、ずっと上り調子で来た西田にとって、初めて「自分が何もできていない」と思える相手と直面し、気づかぬうちに迷いが生じていた。
1、3セットを取った日本が第4セットも石川祐希のスパイクでマッチポイントとし、1点を返された後、二度目のマッチポイントをセッターの関田誠大は西田に託す。
これを決めるのが自分の仕事。だが、渾身の一打はエジプトのブロックに阻まれ24-24。積み重ねて来たはずの自信が、その1本で砕かれた。
「気にするな、思い切りプレーしろ」
自分が決められなかった、と思えば思うほど、できることをやらなきゃと気持ちばかりが焦り、壁やポールにぶつかりそうな状況でも強打から逃げず、積極的にレシーブへ飛び込む。「スパイクが決まらない分、ケガをしたって、この1本を上げてやると思っていた」と言う西田のプレーがつながった結果、得られた1点があるのも事実だ。
だが、点取り屋の西田がそこまで身を投じる理由。心中に抱く焦りや不安を、エースの石川は見抜き、タイミングを計りながら、何度も西田へ声をかけた。
「彼が悩んだりするとチームにとってもよくないので、『気にするな、思い切りプレーしろ』と。周りの選手には『西田は大丈夫だから、他でカバーしよう』と話していましたし、大事なところでは絶対に西田が何とかしてくれる、と思っていました」
28-30でこのセットを落とし、最終セットへ。西田へのマークやダメージを考慮した結果、石川にボールが集まり、ブロックに屈する苦しい展開で前半はエジプトに先行された。だが、ここで再び流れを呼び込んだのが、11-11の場面で放たれた、西田のサーブだった。
ネットに当たったことが奏功し、強打に備え後方で守っていたエジプトコートの前方に落ちる、サービスエース。
その1点が契機となり、試合は日本がフルセット勝ち。皆が自分を気遣い、助けようとしてくれることは伝わって来たし、何より、大会期間中同部屋だった石川と交わした日常の何気ない会話や、コート内でかけられた声に「救われた」と西田は言う。