熱狂とカオス!魅惑の南米直送便BACK NUMBER
日本人に合うラグビーのフェアさと、
南米在住サッカー記者の深い羨望。
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byNaoya Sanuki
posted2019/10/17 20:00
激しくぶつかり合った選手たちがノーサイドとなれば握手をかわす。ラグビーの精神性には、同じ“フットボール”のサッカーも学ぶところがある。
フットボールに横行する負の側面。
いずれもイングランド生まれで、足を使うボールゲーム。ただし世界中に伝播していく過程において、フットボールの文化は徐々に変貌していったのだろう。
たとえば南米では、選手は臆面もなくダイビングやシミュレーションを繰り返し、少しフィジカル・コンタクトがあると大袈裟に痛がってファウルをもらおうとする。選手どうしの罵り合いや小競り合いも日常茶飯事で、審判の判定にもいちいち文句を付ける。
サポーターも、相手選手や審判を口汚く罵ってプレッシャーをかけることを良しとし、人種差別的な言動も少なくない。結果のためには手段を選ばないやり口が横行している。
ラグビーの美しく、フェアな精神。
一方、ラグビーは身長2m前後、体重100kgを超えるような巨漢が何の防具も付けずフルパワーで衝突を繰り返すが、倒れても痛そうな素振りなど全く見せず、すぐに立ち上がってプレーを続ける。
試合中、選手たちがもみ合うことは極めて稀で、微妙なプレーで審判から自分たちに不利な判定を受けても抗議などしない。試合後が終わると文字通りの「ノーサイド」で、しばしば花道を作って健闘を称え合う(この儀式は、実に美しい)。
サポーターも、審判や相手選手を罵倒したりブーイングを浴びせたりせず、試合後は相手サポーターと笑顔で交歓する。フットボールの常識からすると、ありえないことばかりだ。
スポーツとしてどちらがよりフェアかは、言うまでもない。長年、南米でフットボールを見てきた者として、このようなラグビー文化に深い羨望を覚えざるをえない。