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ジョコが初めて日本で戦った意義と、
楽天OPの格を高める完璧な対応。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byHiromasa Mano
posted2019/10/08 11:40
貫禄の優勝を飾ったジョコビッチ。しかし今大会は強さ以上に彼の柔和な表情が目立った。
東京よりも北京が選ばれる傾向。
優勝スピーチでの「オゲンキデスカ」はちょっと変だったが、それも愛嬌で、ジョコビッチが日本語で何か言うたびにスタンドは沸いた。練習コートにはファンが押し寄せ、<出待ち>の列は数十メートルも続いていた。
しかし、ジョコビッチと日本のファンの間に特別な絆が生まれる域にはまだ達していないだろう。
チャンピオンが次の年に戻って来て、トーナメントとの特別な関係が生まれるのだと思う。
ところが残念なことにこの大会は、なかなかチャンピオンが戻って来てくれない。
ケガ人の多くなる時期だからやむをえないケースもあるが、最近ならたとえば2016年に初優勝したニック・キリオスは、翌年から同じ週に開催されている北京を選び、昨年予選からチャンピオンに駆け上がったダニール・メドベージェフも今年は上海に出場する予定だ。
錦織がいれば……だけではなく。
トップ選手を大会に呼ぶにはお金がかかる。
賞金ではなくそれとは別の<出場料>が存在することは、詳細が表に出ないだけでテニスのツアーでは周知の事実。ただでさえ北京は同じATP500の大会でも賞金がほぼ2倍ということもあり、東京が競争に勝つためには本人の希望云々ではなくエージェントとの交渉が重要だ。
しかし今の日本の場合、そんな苦労をしなくても、錦織がいれば大会は盛り上がるという現実がある。それが北京の出場者との顔ぶれの差を生んできたのではないか。
だが今年はジョコビッチが大会の格を高め、世界に大きく発信できる話題を作った。錦織が欠場する中、大会はジョコビッチにどれだけ助けられたことだろう。相当の金額が動いたはずだが、その期待に彼は完璧なかたちで応えた。