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サモアを押し込んだ歴史的スクラム。
ヒーローはいない、ONE TEAMだ。
text by
多羅正崇Masataka Tara
photograph byNaoya Sanuki
posted2019/10/06 12:20
サモアに押し勝ち、常に走る。この日のジャパンフォワード陣は凄まじかった。
突如訪れたラストアタックのチャンス。
ところが、81分59秒だった。
サモア投入のスクラムで、南アフリカ出身のヤコ・ペイパー レフリーの笛が響いた。スクラムのノットストレートだ。
スクラムハーフはボール投入のさい、スクラムの中心線から肩幅分だけ自陣側に立ってもよい。しかし途中出場のSHペレ・カウリーはスクラム中央付近に立ち、レフリーの目の前で自軍方向へ斜めにボールを入れた。
日本ボールのスクラムで再開――突如として、ラストアタックの大チャンスが到来した。
8人が一歩一歩進んでいく。
そして83分5秒、途中出場の田中史朗がスクラムにボールを投入した。大声援の後押しを受けて、日本のスクラムがひと塊となって前進する。サモアのスクラムを粉砕し、ペナルティを獲得した。
このとき途中出場から左プロップに入っていた中島イシレリは、今年1月にFW第3列から本格転向したばかり。わずか9カ月後の大舞台で、たゆまぬ努力が花開いた。日本代表のジェイミー・ジョセフHCは、長谷川慎スクラムコーチと本人の研鑽を讃えた。
「(中島は)ルースフォワード(FW第3列)からプロップになり、長谷川コーチが、このようなテストマッチで勝てるようにしてくれた。これは信じられないことで、これだけでも凄いことです」
84分9秒、再度の自軍スクラム。田中がボールを投入する。次こそスクラムトライだ。歓声の地響きに押されるように紅白ジャージーの8人が一歩、また一歩と進んでいく。8人の力を漏らさない日本のスクラムが、前進するひとつの意志になってトライラインへ進んでいく。