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サモアを押し込んだ歴史的スクラム。
ヒーローはいない、ONE TEAMだ。
posted2019/10/06 12:20
text by
多羅正崇Masataka Tara
photograph by
Naoya Sanuki
スクラムトライを狙っていました。ラグビー日本代表の堀江翔太はそう振り返った。
サモア代表とのW杯第3戦は、試合時間の80分間を超えてオーバータイムに突入。31-19でリードする日本は、相手ゴール目前の好位置で、自軍投入のスクラムを迎えた。
トライエリアまで、あと5メートル。スクラムであと5メートル前進すれば、NO8姫野和樹が難なく相手インゴールに抑えられる――すなわちスクラムトライ(ST)だ。
83分5秒、途中出場の田中史朗がスクラムにボールを投入した。直後から、日本は8対8の攻防に打ち克ち、前進した。
押せる。行ける。
ここでトライを取れば、4トライ以上のボーナス点を得ることができ、日本ラグビー初の8強進出へ大きく前進する。
絶叫にも似た4万人の大声援が、豊田スタジアムに響き渡る。声の他は何も聞こえない。きっと日本全国のファンゾーンで、世界中のリビングで、数え切れない多くの人びとが、日本開催のW杯で繰り広げられる一本のスクラムに声援を送っていた。
押せ、日本。
押せ!
こんな幸福な瞬間が訪れると誰が予想しただろう。スクラムには日本中、世界中の視線に耐えうる力があると、どれほどの人が知っていただろう。日本のスクラムが、観る者の心を鷲掴みにし、揺さぶり、無上の一体感を生み出していた。
最後の5分、何が起きていたか。
サモア戦の最後の5分間で何が起きていたのか。いったん時計の針を試合終了5分前に戻そう。
WTB松島幸太朗がインゴール左隅へ滑り込み、日本のボーナス点獲得を確定させるチーム4トライ目を決めたのが84分25秒。
その5分前の79分25秒は、ちょうど日本のラインアウトモールを防がれ、レフリーがサモアボールを告げた直後だった。スコアは31-19で日本がリードしていた。