ラグビーPRESSBACK NUMBER
W杯が教えてくれた誇りと熱狂。
きっと日本ラグビーの未来は変わる。
text by
金子達仁Tatsuhito Kaneko
photograph byNaoya Sanuki
posted2019/10/01 20:00
アイルランド戦の勝利は、日本全土を熱狂の渦へと巻き込む価値あるものだった。
アイルランドは、二兎を追った。
まだ決勝トーナメント進出が決まったわけではない。サモアやスコットランドが簡単な相手でないことは、他ならぬ選手たちが一番よくわかっているはず。
日本と戦ったアイルランドは、二兎を追った。勝利とボーナスポイント。ゆえに、PGが狙える場面でもサイドに蹴りだしてのラインアウトを選択した。アイルランド人は断じて言い訳をしなかったし、彼らは気持ちがいいぐらいに日本の強さ、素晴らしさを讃えてくれた。
アイルランドを倒す日本を見たことで、サモアも、スコットランドも、もう欲はかかないだろう。今大会の日本は、もはやボーナスポイントを計算できるような存在ではない。勝つか負けるか。このわかりやすい2択から自分たちにポジティブな結果を引き出すこと自体が難しい相手だということを、たぶん、彼らは覚悟している。
一方、日本のメディアの中にはサモア戦、スコットランド戦でのボーナスポイント獲得を期待するような論調も出てきている。選手たちが影響を受けるとは思えないが、しかし、勝って当然という空気の中で戦い、期待通りに勝利を収めるのは簡単なことではない。
それでも、アイルランドに勝ったことで、スタジアムの中だけのワールドカップだった今大会は、日本全土を巻き込んだワールドカップへと急速に姿を変えつつある。自国の勝利だけでなく、日本という異文化の中での非日常を楽しみに来日していたであろう外国人は、大人しい日本人が仮面をかなぐり捨てて狂喜する姿を目撃し、めったにみられないものを目の当たりにした興奮に飲み込まれている。
エコパの勝利が、火をつけた。
新宿のゴールデン街では世界中から集まったラガーマンが気勢を上げ、道頓堀の一角ではアルゼンチンのファンが大騒ぎをしていたという。
祭りが、始まった。エコパの勝利が、火をつけた。
この火は、熱は、きっと日本ラグビーの未来を変える。子供たちが楕円球に憧れ、4年に一度のワールドカップを日本中が渇望し、弾丸ツアーで応援に行く人たちが当たり前になる未来が、きっと、やってくる。
それにしても──。
言い訳にまみれ、誰かを貶めまくってきた人間として無念でならないのは、あまりにも素敵なラガーマンたちの唯一といってもいい悪癖について、自分が何ら語る資格を持たないことである。
いえるわけがない。
この酔っぱらいどもが、なんて。