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アイルランドも日本も欺いた大勝利。
弱点すら伏線にしたジェイミーの策。
posted2019/09/30 11:50
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Naoya Sanuki
ひょっとして、われわれは欺かれていたのではないか?
2019年9月28日、静岡での歴史的な夜。日本は、アイルランドに勝った。
19対12。
正直、勝つとしたらハイスコアのゲームだと思っていた。前半からジャパンが積極的にボールを展開してトライを取る。アイルランドはスクラム、ラインアウトのセットピースから寄り切りを狙う。
加えて、9月とはいえまだまだ蒸し暑い日本列島、日本が中7日、アイルランドが中5日の試合となれば、相手が疲弊するのは計算できた。
結果、取りつ取られつの大熱戦になってこそ、勝機があると思っていた。
ところが、ジャパンはこれまでのジャパンではなかった。これまで散々重視してきた、戦略的なキックをあっさり放棄した。
試合の入りからポゼッションを重視し、とにかくアタックを繰り返す。しつこいほどに。
ここまで徹底してくるとは予想していなかったし、このしつこさが昨年11月、炎のタックルでオールブラックスを破った魂のアイルランドを疲れさせた。
相手の予想を裏切る、という共通点。
この番狂わせ、4年前の南アフリカ戦と共通することがある。
戦前に予想された戦い方をジャパンはしなかったことだ。
4年前、エディー・ジョーンズはポゼッションを徹底的に重視し、「パス11に対しキックは1」という数字を黄金律とした。
南アフリカ戦は、当然のことながらフェイズアタック中心に攻め続けると予想されていたし、南アフリカもそれを期待していた。
スプリングボクスはディフェンスが大好物だからだ。タックルして、痛めつける。それがスプリングボクスの流儀だ。
ところが、ジャパンは攻めなかった。
「どうして、相手の得意なところで勝負しなきゃいけないんですか?」
エディーはニヤリとした。
ジャパンは、蹴った。黄金律をあっさり放棄し、蹴って、相手に攻めさせた。