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大坂なおみ、大阪での大きな優勝。
臨時コーチの父とのキーワード。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2019/09/24 19:00
今年2度目のコーチ変更が物議をかもした大坂なおみだったが、大阪での東レPPO優勝は大きな自信となったはずだ。
「私たちの間ではキーワード」
「相手のケガを心配しているのか? だからといってプレーを変える必要はない。今までとてもいいプレーをしているから、落ち着いて、集中してこのまま試合を締めくくりなさい」という内容で、それを実行するために<discipline>という言葉を口にした。鍛錬やしつけ、規律といった意味があるが、この場合は、自制心や自律心といったところだろうか。
「それは私たちの間ではキーワードみたいなもの」とあとで大坂は言った。このワードを耳にすれば、多くを語らなくとも父が何を言いたいのかわかる。どんな局面でも、感情に流されず、やるべきことを遂行する精神的強さは、子供の頃からずっと言い聞かされてきたことだからだ。
その後、プティンツェワはコートに戻ったが、緩いサーブのあとフォアを大きくはずして1ポイントで試合は終了した。結果的に父のアドバイスは不要だったかもしれないが、その言葉はのちの優勝の瞬間まで生きていたように思う。
不安定な環境の中で8カ月ぶりの栄冠。
雨の影響でダブルヘッダーとなったこの日は、2時間足らずの休憩をはさんで準決勝が行なわれたが、世界ランク24位のエリーゼ・メルテンスを6-4、6-1で一蹴。翌日、一昨年のファイナリストでもあるアナスタシア・パブリュチェンコワとの決勝では、ファーストサーブからのポイント獲得率100%を記録し、一度もブレークポイントすら握られない安定感を見せた。
強い風が舞うコンディションの中でも苛立たず、力強く、我慢強く戦う姿は絶頂期を思わせた。最終ゲームでパブリュチェンコワのドロップショットに全力で食らいついてクロスへ決めたウィナーは、1ポイントへの執念、勝利への決意の塊だった。
臨時のチーム体制に、臨時の開催地。不安定な環境の中でつかんだ8カ月ぶりの栄冠。このレベルのプレーヤーたちを迎える舞台としては決してふさわしいとはいえない大阪の会場で、誰よりも勝ちたいという気持ち、高いモチベーションを抱き続けていたのが大坂だった。
「この優勝はとても大きな意味があると思っている。ずっと調子が上がらなかったけれど、ここですべてが噛み合ったのは運命のような気もします」
そして優勝会見の最後にこんな話をした。
「大阪に住んでいたときのことはほとんど覚えていません。覚えているのは、お母さんが姉と私をどこかの公園に連れて行ってくれて、そこで肉まんを食べたことくらい」