One story of the fieldBACK NUMBER
だんじり祭りよ、どうかそのままで。
反時代的だからこそ守れるものを。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byTakashi Shimizu
posted2019/09/22 19:00
自分たちが時代に逆行していることなど百も承知である。しかし、金にも「いいね!」にも替えられないものが、そこにはあるのだ。
2年間の「潜入取材」の最初の日。
潜入取材(その範疇であったかはもうほとんどわからない)と称して2年間、漁師町で若頭の法被を着た。
皆様、見ず知らずの東京モンを迎え入れてくださってありがとうございました――。
令和元年の祭りが終わった夜、そう別れの挨拶をすると怒号が飛んだ。
「アホかあ! 逃がすかい!」
無言で突き出されたジョッキを「ソーリャア! ソーリャア!」の掛け声の中で必死で喉に流し込んでいる最中、初めてここに来た日のことを思い出した。
ライター? なんや、それ? えらいんけ? そんでお前、いくつやねん?
あ、はい、41です。
そうかあ。俺は42や。
そうなんですか……。
ええか、お前がどんだけえらいんか知らんけどよ。社長かなんか知らんけどよ。俺は永久にお前の1コ上や! お前が60なったら61や。覚えとけ! ワハハハッ!
どうかそのままで。たとえ滅びようとも。
皆さん、この社会で、昭和の体育会は消えつつあります。猛烈型の会社も滅びつつあります。
このままでは祭りも消滅する日がくるのではないかと心配です。
でも……、矛盾するようですが、誤解を怖れずに言います。
皆さん、どうかそのままでいてください。後輩のタメ口を許さない、おっかないおっちゃんのままでいてください。だんじり男のままでいてください。祭りをみんな仲良しのお祭り騒ぎなんかにせず、本物の祭りのままにしておいてください。
でなければ。すべてのものが丸く、平らにならされ、あらゆるものが平熱になってしまったら、過剰なものにしか惹かれない、この刺激ジャンキーの、しがない物書きは一体どこに物語を見出したらいいのでしょうか。
どうかそのままで。たとえ滅びようとも。
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