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だんじり祭りよ、どうかそのままで。
反時代的だからこそ守れるものを。 

text by

鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

PROFILE

photograph byTakashi Shimizu

posted2019/09/22 19:00

だんじり祭りよ、どうかそのままで。反時代的だからこそ守れるものを。<Number Web> photograph by Takashi Shimizu

自分たちが時代に逆行していることなど百も承知である。しかし、金にも「いいね!」にも替えられないものが、そこにはあるのだ。

41歳、若頭の中では“ガキ”扱い。

 そうやって青年団の中でやっと最年長になったかと思ったら、25歳からはだんじりの後方で、方向転換をつかさどる、「拾伍人組」となる。

 また、サーバー係から再出発である。

 タケシは41歳。青年団、拾伍人組を経て、5年ほど前に祭りの運営をする「若頭」の一員になったばかり。だんじりの華といわれ、屋根で華麗に舞う大工方でもあるのだが、この若頭という組織の中では“ガキ”なのだ。

 頭をペシペシとされた翌朝、タケシはケンタロウと、マサタカに電話をかけてきたという。

 昨日、スンマセンでした! 僕、何か失礼なこと言ってました?

 やっぱり酔うてたんやんけ! 

 そんな突っ込みとともに、彼は二日酔いの頭にもう一度、説教を浴びたのである。

「ああ、あれ? いつものことや。あいつ、何回もああやって怒られてんねん」

 ケンタロウは笑っていた。

 ひっくりかえることも、並列になることさえない絶対的な年功序列のピラミッドである。

年功序列が安全装置になる。

 祭りの見せ場は狭い路地の角にあるといわれる。猛スピードで走らせた曲がらない構造のだんじりを、人力で曲げる「やりまわし」である。

 一瞬の躊躇で死者が出るという危険な疾走の中、有無を言わせぬ年功序列が安全装置になる。責任者の判断に間髪入れずに従う統制が必要不可欠だからだ。先輩、それおかしいんじゃないですか? と異議を唱えている暇などない。

 もし事故があれば、責任者が道路交通法違反で書類送検される。他町と揉めれば、年長のおっかない先輩が矢面に立つ。そこに先輩の役割がある。だから理不尽な上下関係が屋台骨であるというわけだ。

 各町、各団体では年代ごとにサル山のボスを決めるがごとく、マウントの取り合いが繰り返され、声のでかい者が勝ち、なめられた者は負ける。だから、おっかない人はいつまでもおっかないし、とんがった人の角はいつもまでも丸くなることがない。学校の先生の言うことは聞かない札つきも、祭りの先輩の言うことは聞く。

【次ページ】 社会の理屈ではなく、祭り男の理屈。

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