One story of the fieldBACK NUMBER
だんじり祭りよ、どうかそのままで。
反時代的だからこそ守れるものを。
posted2019/09/22 19:00
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Takashi Shimizu
お盆が過ぎて9月が近づくと岸和田の町には祭り囃子が響く。夕刻、どこからともなく聞こえてくる太鼓とともに、道沿いの提灯に火が入り、町の色が劇的に変わる。
そして酒場はかなり夜も更けてから混み始めるようになる。
大阪の南、泉州で300年以上の歴史を持つ岸和田だんじり祭り。9月半ばの宵宮と本宮に向けて曳行を許された各22町で、祭礼団体の男たちが毎晩「寄り合い」を始め、その二次会へと流れるからだ。
この時期、それぞれの店で枝豆や冷奴などのつまみとともに供されるのが、怒声である。
「おう、タケシ! お前、誰に口聞いてんねん! ちょ、来いや!」
祭りまであと数日となったこの日、ある漁師町の居酒屋は、その町の祭礼団体の男たちで埋まっていた。その席で入口付近に座っていたタケシ(仮名)がカウンターの真ん中にいる男に怒鳴られていた。
上下関係を上下関係でかき混ぜる。
「いえ……、ケンタロウくんの言い方が先輩に対してどうなんかなあ、思ったんで……」
「あ? なんでお前にそんなこと言われなあかんねん。おうタケシ! お前、なめてんか? 酔うてんか? どっちや?」
どうやら、タケシは、2つ上のケンタロウ(仮名)が、先ほど後輩の分まで金を置いて店を出て行った年長者に対して「いつまでも腹引っこまんねえ」と軽口をたたいたことに対して、「ケンタロウくん、その言い方はどうなん?」と咎めた。それによって今、カウンターの前で直立する羽目になっているようだ。
「おう! タケシ、どっちなんや!」
「いえ、なめてませんけど……。先輩に対してどうなんかな思うただけで……」
上下関係についての議論を上下関係でかき混ぜるという複雑な問答が続く中、カウンターの反対側からもう1人、加わった。
「おう、どないしたん? なんや、タケシ、お前、ケンタロウに何か失礼なこと言うたんか? お前、酔うてんか? おい! いつも言うてるやろ……」
彼はマサタカという番長格の男で、ケンタロウとは同級生、タケシとは幼なじみの先輩後輩という間柄だという。
こうなると3つの上下関係が絡み合って、もうどうにもならない。