クライマーズ・アングルBACK NUMBER
なぜアウトドア企業が本を作るのか。
創業者「野外で遊ぶだけではなくて」
posted2019/09/22 08:00
text by
森山憲一Kenichi Moriyama
photograph by
Yuki Suenaga
A&Fという会社を知っているだろうか。ひと言でいえば、アウトドアグッズの輸入販売を手がけている会社である。
バックパックブランドの「ミステリーランチ」や、キャンプ用品の「ロッジ」など、高品質で知られるブランドを取り扱い、アウトドア界ではかなり知られた存在となっている。
現在は扱っていないが、バックパックブランドの「グレゴリー」をいち早く国内に紹介した会社といえば、なるほど、とうなずく人も多いかもしれない。
そのA&Fが、近年、本の出版を行っている。それも、どこかの出版社と組んだわけではなく、完全に独立事業として。それでいて、出す本のクオリティが異様に高い。今年は定期雑誌として思想誌の刊行まで始めた。
なぜ、アウトドア製品輸入会社が出版を?
なぜ、この出版不況の時代にあえて?
本作りなどしたことのないはずの会社がどうしてこのクオリティを?
会社の創業者であり現会長、そして出版事業を始めた当事者でもある赤津孝夫さんに、その尽きぬ疑問をぶつけてみた。
アウトドアは「カルチャー」だから。
どうしてアウトドアの企業が本作りを始めたのか。
「よく聞かれます(笑)。うちは創業42年になるんですが、創業当初には洋書の輸入販売もやっていたんです。それがけっこう売れていましてね。当時はアメリカでアウトドアムーブメントが盛り上がった時代で、でも、その情報は日本にはまだまだ入っていなかったんです。
アメリカのアウトドアというのは、カウンターカルチャーとしての側面が強くて、ただ野外で遊ぶだけではなくて、思想的なこととか哲学的な部分も重要な要素だったんです。
スティーブ・ジョブズが言った『Stay Hungry, Stay Foolish』という言葉がありますよね。あれはジョブズのオリジナルじゃなくて、『ホールアース・カタログ』という、当時のアメリカン・アウトドアのバイブル的な本に載っている言葉なんですよ。
私たちが扱っているアウトドア用品は、そういうアメリカのカルチャーをバックグラウンドにもったものが多いので、ユーザーの方も知識がほしかったんじゃないかと。そういう経験が、現在の出版事業の根底にはありますね」
A&Fが出版事業を始めたのは2014年。これまでの5年間に23冊の本を刊行しており、そのうち半数の11冊が海外原著の訳書である。刊行第1号は、『アウトドア・サバイバル技法』(ラリー・D・オルセン著)という本。
「この本、アメリカで半世紀も読まれている大ロングセラーなんです。じつはこの原著を、創業当初に輸入していました。ほかにも、ロープワークの本とか、釣りとかナイフの本とか、私たちの商品を買ってくれるお客さんが興味をもちそうなテーマの洋書をいくつも輸入していました。
趣味のモノって、好きな人はその文化とか背景にも興味が湧きますよね。だから私たちも、モノを売るだけじゃなくて、情報の需要にも応えたいし、そういう部分を知ってほしいという思いもありました。
だから本にはずっと興味があったんですが、出版を事業として始めた直接的なきっかけは、『アウトドア・サバイバル技法』がアメリカで今でも売られていることを知ったことです。やっぱり本というのはいいな、廃れない商品だなということを再発見したんです」