One story of the fieldBACK NUMBER
だんじり祭りよ、どうかそのままで。
反時代的だからこそ守れるものを。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byTakashi Shimizu
posted2019/09/22 19:00
自分たちが時代に逆行していることなど百も承知である。しかし、金にも「いいね!」にも替えられないものが、そこにはあるのだ。
パワハラ、という概念はない。
最終的に、タケシはカウンターの真ん中でケンタロウに頭を下げ、反対側でマサタカに頭をペシペシと叩かれながら、
「俺、お前のこと可愛がってきたやろ。そんで、いつも言うてるやろ。酔うて失礼なことしたらあかんて。いえ、酔うてませんよ。そんならマサタカくん、ここ、隣に座らせして飲ましてくださいよ。あかん! お前は向こうに座っとけ! なんであかんの?」
というやり取りを延々と繰り返して、騒動を軟着陸させていった。
こうして杯がすすみ、夜が深まる。日付がまた1日、祭りへと近づいていく。
東京から来た筆者にとって、こうした光景は一瞬、「あ、まずいよ、これパワワラじゃない?」との思いがよぎってしまうのだが、この土地にいると不思議とそんな心配も霧散していく。
なぜなら、この絶対的な年功序列がだんじり祭りの屋台骨であるからだ。
中学を卒業すると、下積みが始まる。
だんじり祭りでは、各町の祭礼組織は以下のように構成されている。(町によって名称や年齢枠は異なる場合もある)
・青年団……16歳から25歳くらいまで。だんじりの前に伸びる綱を曳く役割を担う。
・拾伍人組……25歳から35歳くらいまで。だんじり後方の梃子を操り、舵をとる。
・若頭……35歳から50歳くらいまで。各町の曳行運営を取り仕切る。
・世話人……50歳から。他町との交渉や、曳行責任者の選出など。町全体のまとめ役。
まず中学を卒業した男は16歳で青年団に入る。「新団」と呼ばれる彼らは、居並ぶ先輩たちの前で大声で自らの名前を叫び、挨拶代わりに酒を飲み(さすがに今は慎んでいるようだが、かつては当たり前だったようだ)、芸で笑わせる。
まずは、おもろい奴というのが序列の尺度になるのだが、どうしても、おもろいことができない奴は最終的に「ジャングル・ファイヤー」と呼ばれる芸をすることになる。
その名から連想できると思うが、つまりはあそこの毛を燃やすのだ。
そして、寄り合い中はずっと生ビール・サーバーの横で待機して、ひたすら先輩たちの酒を注ぎ続ける。
祭りの日になれば、最大8トンにもなる、だんじりを走らせる原動力としてぶっとい綱を曳き、手の平と足の裏の皮をボロボロにしながら、追い役といわれる先輩たちから牛馬のごとく、団扇で背中をバシバシと叩かれながら、へとへとになるまで疾走する。