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なぜアウトドア企業が本を作るのか。
創業者「野外で遊ぶだけではなくて」
 

text by

森山憲一

森山憲一Kenichi Moriyama

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photograph byYuki Suenaga

posted2019/09/22 08:00

なぜアウトドア企業が本を作るのか。創業者「野外で遊ぶだけではなくて」<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

アウトドアの輸入販売を手がけるA&Fの創業者、赤津孝夫会長。

カタログも美しいA&F。

 その思いを貫いた結果に違いないのだが、これまでに刊行された本は、普通の出版社にはなかなかできないほどのクオリティだ。

 まず、装丁が非常に凝っている。ハードカバーあり、ペーパーバックふうのものあり、今どきあまり見ない箱入りのものまである。デザインのクオリティも高く、中身を読まずとも部屋に置いておきたいと思わせるような、“モノ”としても質感が高いものが多い。

「そこは土台があったんです。毎年、当社の取り扱い商品カタログを出しているんですが、300ページほどあるカタログの3分の1くらいが、商品とは直接関係ない読み物の編集ページになっています。たんなるカタログとして捨てられてしまわないために、それから商品を取り巻く文化により深い愛着をもってもらうためにやっていたんですが、結果的に、そこに文章を寄せていただいた作家さんとかアウトドアの専門家とかとのつながりが蓄積されていました。

 装丁もそうです。カタログをよりよいものにするために、一流の装丁家さんとか編集者にかかわってもらうなかで、本作りのプロの方たちとたくさん知りあうことができました。そういう意味では、ゼロから出版業を始めたわけではないんですよ」

これまでで一番売れた本は?

「これまででいちばん売れたものですか? それは、昨年2018年に出した『トレイルズ』(ロバート・ムーア著)という本です。全長3500キロくらいあるアメリカのアパラチアントレイルというコースを著者が歩くんですが、その過程でいろいろなことを考えるんです。どうして道ができたんだろうとか、周辺の自然環境のこととか。歩きながら人間の内面や自然のあり方に思いをはせていく過程が描かれているんですね。

 トレイルって、登山道とかハイキングコースという意味なんですが、日本では『道』という言葉には、道徳的な意味とか人生訓的な側面もありますよね。著者もそのような観点に焦点を当てていて、そういうところが日本の読者にも共感されたのかなと思います。

 あとはこれ、『バーバリアンデイズ』(ウィリアム・フィネガン著)。この著者はニューヨークタイムスのジャーナリストなんですが、サーフィンが趣味で、波を求めて世界中を旅していたころの思考を書いています。いわば『トレイルズ』の海版みたいな本ですね。ピュリッツァー賞を受賞した作品で、アメリカではオバマ元大統領が夏に読みたい本としてあげていたくらい有名な本です」

 これらはA&Fという会社の成り立ちからしてテーマ的にふさわしく、わかりやすい本だ。他にも、ダッチオーブンやスキレットを利用したキャンプレシピの本などもあり、これも本業と合致していて、「なぜ、本を」という疑問には答えやすい。

【次ページ】 文化思想の定期刊雑誌はなぜ?

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