クライマーズ・アングルBACK NUMBER
なぜアウトドア企業が本を作るのか。
創業者「野外で遊ぶだけではなくて」
text by
森山憲一Kenichi Moriyama
photograph byYuki Suenaga
posted2019/09/22 08:00
アウトドアの輸入販売を手がけるA&Fの創業者、赤津孝夫会長。
とはいえハードルは高いはずだが……。
とはいえ、出版というのはいうほど簡単な事業ではない。独自に本を作って、取引のあるアウトドアショップなどに並べれば確かに販売はできるが、書店に置かれなければ広がりはもたない。
書店で販売するには、取次という本専門の流通業者を通す必要があるのだが、その取次が新規の取引先をなかなか受け入れないというのは、出版業界では知られた事実。よほどの覚悟がないと、まずこのハードルを越えられないのが普通だ。
A&Fもその例にもれず、本は作ったものの、当初は書店で販売することはできなかった。1冊作って独自に販売した実績をもって、小さな取次業者との取引がようやく可能になり、少しずつ販路を広げて今にいたる。
ブランドには唯我独尊の部分が必要。
付き合いのあるアウトドア系出版社などに交渉して本を刊行してもらうという手もあったはずだが、わざわざ苦労の多い道を選んだのはなぜか。
「うーん、そこはこだわりというか……。他の力を借りてやっても自分たちの財産にならないし、そうすると自分たちの力が発揮できないんじゃないかと思うんです。
ブランド商売を長年やってきて思うんですが、ブランドには唯我独尊的な部分も必要なんじゃないかと。それが、他とは違う一目おかれる存在を作るわけで、A&Fという会社もそうありたいと思ってやってきましたので」
輸入販売会社が変わることも多いアウトドアブランドの業界で、A&Fは取り扱うブランドをなかなか変えないことで知られる。よいと思い定めたブランドは簡単には手放さず、自社に専用修理工房まで備える態勢で、じっくり時間をかけて育てていく。そういう姿勢がアウトドアユーザーの信頼を得ていることは間違いない。
本を作るにあたっても同じ。出版社の力を借りては、できあがるものは結局その出版社のもの。それでは自分たちの個性を100%発揮することはできず、ということは、A&Fブランドの確立に寄与する割合も限定的になる——ということだろうか。