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ナダルが覆した「短命」の先入観。
フェデラー&ジョコと競い合って。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2019/09/12 12:30
タフマッチを制し、4度目の全米制覇を達成したナダル。その情熱はフェデラー、ジョコビッチとはまた違う魅力である。
30代で5度のグランドスラム制覇。
こうして、クレーから芝までのヨーロッパ・シーズンに全精力を注ぐナダルは、シーズン後半に息切れ状態で苦手なハードコート・シーズンを迎えなくてはならなかったのだ。
弱点といわれたサーブを強化し、1年を戦いきるスタミナをつけ、到達したのが決勝でジョコビッチを破った2010年の全米初優勝だった。
しかしそのジョコビッチにはその後、6連敗、7連敗という辛酸をなめさせられた時期もあった。得意のクレーコートですら黒星を重ね、全仏オープンの準々決勝で完敗した2015年には、もうナダルの時代は終わったと囁かれたものだ。次の年は3回戦で姿を消している。それが、その翌年から3連覇とは……。
フェデラーとジョコビッチ、このライバルたちがいなかったら、今のナダルはいないだろう。
次の目標のために課題を見つけ、自分のテニスを少しずつ変えていく。
「そのプロセスが楽しくなければ、こんなに長く続けてくることはできなかった」とナダルは言う。テニスへの献身が求められれば求められるだけ強くなり、ナダルの「楽しむ」は別の次元に到達した。
30代を過ぎてから手にしたグランドスラム・タイトルの数はこれで5個。フェデラーやジョコビッチ、ロッド・レーバー、ケン・ローズウォールという新旧のレジェンドたちとのタイ記録から一歩抜け出し、単独記録となった。
こんなことを予言できた人はいただろうか。
20回ものサーブ・アンド・ボレー。
「全てのポイントがマッチポイント」というのは、ナダルのテニスを表すわかりやすい表現だ。ただ、限界まで鍛え抜かれた肉体や研ぎ澄まされた精神は、疲弊するスピードも速く、短命が予想されていた。
思えば、ナダルのキャリアは人々の先入観や固定観念との闘いであり、それを覆す偉業達成の連続だ。
今回の決勝戦では、20回もサーブ・アンド・ボレーを試みたクレーコート・キングの姿に皆が驚いた。若くパワフルな23歳とのベースラインの長い打ち合いを避けた戦術は、なんと85%の成功率をおさめている。ナダルの進化の歴史を見せつけた戦いぶりだった。