甲子園の風BACK NUMBER
投手起用に疑問が残ったU-18W杯。
「世界一」より優先すべきこと。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byAFLO
posted2019/09/12 07:00
甲子園閉幕から約1週間で始まるU-18ワールドカップは、常に困難だ。勝利至上主義で臨む大会かどうかは検討の余地がある。
「世界一」の重圧がかかっていたとはいえ……。
7日のオーストラリア戦では、1-4の9回2死一、三塁の場面で、奥川がブルペンに向かった。
奥川は8日の決勝か3位決定戦に進んだ場合に登板するとみられていたが、この時、「同点に追いついたら行くぞ」と伝えられたという。結果的に、ブルペンでキャッチボールを始めたところで試合終了となったが、同点に追いついていたとしても、次の回に奥川が万全の状態でマウンドに上がるのは難しかったのではないか。
今大会、1試合のみの登板に終わった奥川は試合後、「もう少し投げたかったという気持ちは強いですけど、無理はしたくないというふうにも思っていたので……」と複雑な表情を浮かべた。
選抜チームで臨む国際大会では、自チームとの起用法の違いにもある程度は対応しなければいけないが、もう少し役割分担や準備のタイミングなどを整えなければ、選手がベストなパフォーマンスを発揮することは難しいし、負担はかさむばかり。
中には肘の痛みを抱えながら投げていた選手もいた。とても選手1人1人の力を引き出す、選手ファーストな起用とは言えない。
「世界一」を使命とされた永田裕治監督やスタッフ陣にも、重圧がのしかかっていたと思われる。
選ばれた選手たちは世界一を目指して全力を尽くす。しかしこの年代を率いる監督は、目の前の試合に勝つことだけを目的とするのではなく、もう少し冷静に、計画的に、メンバー全体を見渡して、選手の力を引き出すことを優先して欲しかった。
ミスを恐れる重苦しい雰囲気。
それは投手だけでなく野手にも言える。
最終戦となったオーストラリア戦では、日本人の観客からこんな声が聞こえた。
「向こう(オーストラリア)のほうが楽しそうにやってるなあ」
その通りで、日本チームには重苦しい空気が漂い、打撃も守備も、縮こまっていた。
今大会はとにかく守備のミスが目立った。3戦目のアメリカ戦では慣れないグラウンドに雨が降りしきり、その中でミスが続出。特に送球ミスが目立った。それが翌日の台湾戦も続き、敗戦につながった。
連鎖は止まらず、スーパーラウンドの韓国戦、オーストラリア戦でも、勝負どころで守備のミスが失点につながり敗れた。今大会の失策数は9だが、記録上失策になっていないミスも多かった。