甲子園の風BACK NUMBER
投手起用に疑問が残ったU-18W杯。
「世界一」より優先すべきこと。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byAFLO
posted2019/09/12 07:00
甲子園閉幕から約1週間で始まるU-18ワールドカップは、常に困難だ。勝利至上主義で臨む大会かどうかは検討の余地がある。
ルールの枠ギリギリまで投げさせる起用法。
スーパーラウンド初戦のカナダ戦には奥川恭伸(星稜)が今大会初登板初先発し、7回で103球を投げ、18三振を奪う圧巻の投球を見せた。
104球まで残り14球の状態で、1点リードの7回表のマウンドに上がり、「次のピッチャーに中途半端な状態で受け渡したくなかった」と、13球でこのイニングを終わらせた奥川は見事だ。
ただ、甲子園の決勝から2週間ぶりの登板。甲子園の疲労が残っていたために大会前半の登板を控えていた奥川が、いきなり重圧のかかる試合で103球を投じるのはかなりの負担があったはず。しかも3日後または2日後の登板も想定された上での103球だった。
本来、球数制限は投手の体を守るためのものだが、日本チームにはそこが抜け落ちて、単なる“ルール”として運用されていたように見えた。
そのルールの中でなら目一杯投げさせても大丈夫というふうに、選手の状態よりも、球数ばかりを見てしまってはいなかったか。
ある球団のスカウトは、「日本代表の戦い方は日本の指導者たちが見ている。これが(日本で球数制限が導入された場合の)基準になってしまっては……」と危惧していた。
今大会、投手を3連投させたチームは日本と韓国だけ。オープニングラウンドでの3連投は日本だけだった。
ちなみに準優勝したアメリカは大会を通して、連投は一度もなかった。優勝した台湾も、2連投が一度だけ。選手に無理をさせないことと、勝つことを両立している国もある。
佐々木朗希の出血にも伏線があった。
また、今大会の日本は投手それぞれの役割が決まっておらず、リリーフの準備のタイミングも行き当たりばったりで、選手たちは難しい対応を強いられた。
佐々木朗希(大船渡)が6日の韓国戦で先発し、右手中指のまめから出血して1イニングで交代したが、そこには前日のブルペンの影響があったと思われる。
前日のカナダ戦では、7回に奥川の球数が104球に達した場合に登板すると伝えられ、佐々木は慌ててブルペンに行き、急ピッチで40~50球投げ込んだ。
そうして一気に心も体もマックスに高めたが、奥川が7回表を投げきり、その裏、日本が3点を追加して5-1としたため、佐々木の登板はなくなり、飯塚が8回表のマウンドに上がった。
佐々木は8月26日の大学日本代表との壮行試合で同じ右手中指にまめを作っており、その回復を待っての登板だった。再発は十分考えられたはず。そのリスクを少しでも抑えるためにも、また佐々木の本来の力を十分に引き出すためにも、韓国戦の先発に専念させるべきではなかったか。