“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
「僕に柏からオファーが来るなんて」
“代役”川口尚紀が掴み始めた自信。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/08/31 08:00
7月31日に柏へ加入した川口尚紀(中央)。岐阜戦ではクリスティアーノのスーパーゴールをアシストするなど、早くもチームにフィットし始めている。
いきなりスタメン、ぶっつけ本番。
オファーから翌々日の7月30日に柏へ期限付き移籍が発表されると、8月4日の第26節のホーム、琉球戦でいきなり右サイドバックのスタメンとして出場をした。
「柏での練習は3回しかしていないし、試合に出ている組との練習は前日のセットプレーの練習のみでした。なので、スタメン起用は驚きました。ぶっつけ本番状態で、右も左も約束事も、スタジアムの雰囲気も分からない中で、模索しながらプレーしました。
いっぱいいっぱいでしたが、試合後にネルシーニョ監督が『相手のクサビに対して強く行けていなかった』とか、『攻撃面での立ち位置はもっとこうした方がいい』とこのチームでのプレーにおける課題を指摘してくれた。そこで自分でも映像を見直して、頭の中を整理した」
続く山口戦、彼はさらに模索しながらのプレーが続き、連携面でのズレも見られたため、58分でDF宮本駿晃との交代を余儀なくされた。前述した通りミックスゾーンでの表情は少し暗かった。
「まだクリスを活かしきれていない。クリスは間違いなく今のチームの得点源で、攻めるのが好きな選手だし、彼が高い位置でプレーすることで効力を発揮するというのがチームの共通認識。だからこそ、その背後にいる僕が常に彼の位置を視野に入れながら、サポートや時には攻撃に絡む動きをしないといけない。
特にカウンターには気をつけていて、相手はクリスの裏のスペースを狙ってくるからこそ、自分のポジショニングが悪ければやられてしまう。常に頭を働かせて『やるべきこと』を探りながらプレーをしています」
このバランス感覚をピッチで表現することは、言葉で表すよりも遥かに難しいことだろう。
“持ち味”よりも、まずは“規律”。
もともと川口の持ち味はスピードに乗ったオーバーラップとクロスの精度の高さ。それに加えて戻りながらの守備も上手い。自分の良さを発揮することに集中したいが、加入間もなく試合に起用されたことで、チームの戦術、戦略と自分の持ち味をアジャストする時間がまったくなかった。
それゆえにどちらを優先するかの葛藤は生まれたが、機転が利く川口はあくまでチームの規律を崩さないプレーを選択。戦術、戦略を自分の身体に染み込ませていく作業を選んだのだ。
だからこそ、彼は4試合連続でスタメンを張り、第28節V・ファーレン長崎戦でフル出場、岐阜戦で初アシストをマークし、11連勝に貢献することができているのだ。
「正直、『自分が入って連勝が止まったらどうしよう』という気持ちは物凄くありました。まだまだミスはたくさんありますが、やっと徐々にチームに入れてきたというか、自分の中でも狙いを持ったプレーを成功できるようになってきて、手応えを得られるようになってきました」