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商業高校が席巻していた「江川世代」。
甲子園出場校から“時代”を紐解く。
text by
小西斗真Toma Konishi
photograph byKatsuro Okazawa/AFLO
posted2019/08/29 20:00
1973年のセンバツでの江川卓。地方大会の噂だけしか知らなかった全国の野球ファンの前に、初お目見えとなった“怪物くん”。
江川痛恨……押し出しによる敗北。
春に怪物・江川を倒したのが広島商なら、夏に倒したのは銚子商(千葉)だった。江川は栃木大会では3試合がノーヒットノーラン。計5試合で2安打しか打たせずに、甲子園へと戻ってきた。
柳川商(福岡)との初戦を延長15回、23奪三振で振り切り、迎えた銚子商戦も延長戦にもつれ込んだ。12回裏、1死満塁。名将・斎藤一之監督はここでストライクスクイズを命じる。
雨の中、全力で投げたストレートは高めに外れ、押し出しで決着がついた。同じ関東勢。前年の公式戦から練習試合まですべて作新学院が勝っていたが、延長に入ってから降り始めた雨は、本格派の江川には不利だった。
「商業高校」が強かった時代。
怪物を倒したのは春も夏も「商業高校」だった。46年前は甲子園の最大勢力は「○○商」だったのだ。
記念大会で48代表だった「江川の夏」は、北から札幌商(南北海道)、青森商、銚子商、藤沢商(神奈川)、糸魚川商工(新潟)、富山商、福井商、中京商(岐阜)、京都商、岡山東商、広島商、浜田商(島根)、萩商(山口)、高松商(香川)、高知商、柳川商(福岡)、唐津商(佐賀)と実に17校を占めていた。さらに工業高校が前橋工(群馬)、川越工(埼玉)、甲府工(山梨)、金沢市工(石川)、鳴門工(徳島)、日田林工(大分)の6校である。
江川から25年後の「平成の怪物」こと松坂大輔(中日)が輝いた第80回大会も記念大会のため55代表だったが、商業高校は富山商、徳島商、宇部商(山口)の3校のみ。工業高校は出場しておらず、農業高校が金足農(秋田)、新発田農(新潟)の2校であった。
さらに21年後となる今回の第101回大会は、出場こそかなわなかったが「令和の怪物」と騒がれる佐々木朗希(大船渡)の世代である。商業高校が高岡商(富山)、明石商(兵庫)、広島商、高松商で、工業高校は熊本工のみ。広島商は15年ぶり、高松商は23年ぶりと古豪復活を印象づけた大会となった。