マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
甲子園の「現場」が本当に最適か。
スカウトが本当に見たい能力とは。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2019/08/19 11:15
甲子園はスカウトにとっては仕事場でもある。そのやり方に合理化の余地はまだあるだろう。
わざわざ暑いところで見る理由は?
グラウンドでプレーする選手たちにとって、高校野球3年間の集大成なら、スカウトたちにとっても、最長3年間追いかけてきた選手の評価の集大成が「甲子園」であろう。
「最後の仕上げとして、いちばん肝心な土壇場での精神力をできるだけ正確に把握しておきたいっていうのが、スカウトの役目としてあるんですね」
ならば、わざわざ甲子園に出かけてきて暑い中で汗ダラダラ流しながら、見えないもの見てわかったつもりにならなくたって、家でも会社でも快適な室内で、甲子園の現場よりよく見えるテレビの画面で、見たいところを確かに確認したほうが……。
「ね、そうでしょ? ボクもそう思うんですけどね。でも、日本人って……」
話す声が急に小さくなって、アルプスの大声援で聞き取りにくくなって、耳を近づけたら、
「その“わざわざ”っていうのが、日本の社会では貴(とうと)いんでしょ……」
やっと聞こえてきた。
「このくそ暑いのに、わざわざ東京から九州からスカウトが甲子園に集まって、お坊さんの荒行みたいに、狭い席にジッと座って1日4試合見て……このたいへんさが“仕事”なんじゃないんですか。そういう根気比べみたいなことやって給料もらうのがスカウトってもんなんですよ、きっと」
まだ若いのに、悟ったようなことをいう。
現場でわかることももちろんあるが。
ここ数年、スカウトの「7つ道具」にiPadが加わるようになってきた。
A球場のスタンドで実戦を見ながら、B球場で行われている別の注目選手のプレーをiPadの実況放送で確認する。そんな仕事ぶりを目にすることも増えた。
「守備、走塁の能力や全体の雰囲気やとっさの場面での野球センス……そういう部分は球場の現場でないとわかりにくいですが、ピッチングや、あとバッティングもそうですね。その2つの細かいところは、テレビのほうが間違いなく正確に確認できます。でもきっと、まだしばらくはこのスタイルが続くんでしょうね、たぶん」