マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
甲子園の「現場」が本当に最適か。
スカウトが本当に見たい能力とは。
posted2019/08/19 11:15
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Kyodo News
今年の夏の「甲子園」も盛況である。
佐々木朗希がいなくても、「高校BIG4」の内の3人が負けてしまっても、横浜や大阪桐蔭が出てこなくても、連日5時6時の早朝から、チケットを求める人の列で甲子園の周辺はとんでもないことになっている。
屋根もひさしもない炎天下で、球場に入る前に1時間、2時間並ぶのだから、観客の方たちが席につく頃にはもうかなり“いい色”になっていて、試合前というよりは1日しっかり見てきました……みたいな顔がスタンドに並ぶ。
記者席に“居場所”が確保されていて、選手たちがグラウンドに登場する7時過ぎにやって来る私からすれば、まったく頭が下がるばかりである。
そんな中、ひときわ真っ黒い顔で目をギラギラさせながらグラウンドに展開するプレーを見つめるのは、プロ野球のスカウトたちだ。
彼らの“黒さ”は、この甲子園で塗り込まれたものじゃない。
甲子園が始まる1カ月以上も前から各地の地方予選に飛んで、心秘かに「こいつこそ……!」と狙いを定めた選手の成長ぶりを確かめて歩き、屋根もひさしもない炎天下の球場で刷り込まれた筋金入りの焼け方なのだ。
スタンドから見えないものは結構多い。
ひとりの若いスカウトの方が、こんな話をしてくれた。
「甲子園に限りませんけど、スタンドから見てると、見えないものとか見にくいものとか、結構多いんですよ」
ネット裏のスタンドのほぼ“定位置”からプレーを観察するのが、スカウトの方たちのスタイルのようで、スタンドを眺めてみると、多くのスカウトの方が、だいたいいつも同じような位置からグラウンドのプレーを見つめている。
「甲子園の場合、スタンドが大きいので、マウンドと僕らの見ている位置が遠いんですね。だから、特に変化球の球種がわかりづらいんです。今は、高校生でも3種類4種類、ピッチャーによっては5種類ぐらい変化球持ってる子もいますからね。たとえばチェンジアップなのか、フォークなのか、変化のわかりづらいボールの区別は、スタンドからじゃちょっと無理なんですね」