マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
甲子園の「現場」が本当に最適か。
スカウトが本当に見たい能力とは。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2019/08/19 11:15
甲子園はスカウトにとっては仕事場でもある。そのやり方に合理化の余地はまだあるだろう。
「実は、テレビの方がよくわかるんです」
ならば、どうする?
こういうこと言ったら怒られますけど……と前置きして続ける。
「実は、テレビのほうがよくわかるんです。今はセンターからカメラが撮ってますから、変化球の球道はありのまま見えますし、どの変化球のときにどんな腕の振りで投げているか。変化球の種類によって、腕の振りが違ってくるピッチャーもいますからね。まっすぐと変化球との腕の振りの違いも一目瞭然なんです」
そう言われてみれば、思い出す光景がある。
高校野球の「甲子園」もそうだし、都市対抗の「東京ドーム」でも大学野球の「神宮」でもそうなのだが、試合の最中に、通路に設けられたテレビモニターにジッと目を凝らしているスカウトの方が必ずおられる。
「今のテレビって映像がものすごくクリアになったんで、ユニフォームの上からでも筋肉のつき具合がはっきりわかるし、モーションをよーく見ていれば、どの筋肉がどれぐらい機能しているのかも、かなりのところまでリアルにわかるんです」
いちばんありがたいのは……そう言って“決め手”にあげたのは、
「顔の表情がはっきりわかるでしょ…そこなんですよ」
今のテレビの画面なら、ニキビの数までわかるという。
「ずっと抑えてきて、最初のヒットを打たれたとき。最初の1点を奪われたとき。絶体絶命のピンチを迎えたときなんか特に見たいし、そこを切り抜けたときも同じぐらい興味がありますね。そういう場面で、どんな表情の変化があるのか、ないのか。」
選手の腹の据わり方はスタンドでは見づらい。
選手たちの野球の技量については、日頃の練習を見たり、地方大会の実戦ですでに見極めはついている。
甲子園のような「大舞台」でしか確認できないのが、ここ一番の土壇場での精神力だという。
「今のプロ野球って、一見150キロ対フルスイングの力と力の勝負のように見えますが、ほんとのところはものすごい“神経戦”なんです。どの球団にもスコアラーがたくさんいて、バッターの穴とかピッチャーのクセとか、もう丸裸ですよ。
試合中も、特にピンチの場面ではバッテリー間のサイン以外にも細かいシフトのサインが出て、並みの神経じゃつとまりませんから、一軍のピッチャーなんて」
どこまで腹の据わったヤツなのか……そこが、選手の評価の“キモ”になるという。
「テレビだと、それが手にとるようにわかる。現場のスタンドからの視野だと、その肝心なとこがわかりにくいんです」