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桐生祥秀が見据える9秒台の先とは。
「究極のかけっこで一番になりたい」 

text by

小堀隆司

小堀隆司Takashi Kohori

PROFILE

photograph byYUTAKA/AFLO SPORT

posted2019/08/19 08:00

桐生祥秀が見据える9秒台の先とは。「究極のかけっこで一番になりたい」<Number Web> photograph by YUTAKA/AFLO SPORT

日本人初の9秒台ランナーとなった桐生祥秀。1年後の東京五輪へ、さらなる高みを目指している。

「9秒8台を目指してやっていく」

 桐生は過去のインタビューを例に、自分の思いやレース時の感覚を正確に言葉に置き換えることの難しさについてこう語る。

「例えば9秒98を出したときも、結果が出た後に言うからタイムが出た理由もそれっぽく聞こえるけど、自分の中には感覚として残っていないんです。後付けと言えばそうだし、僕は基本、取材ではいま思っていることを正直に答えたい。つねに成長していたいから、同じ問いかけに毎回違うことを言うのもありだと思ってます」

 9秒98を出したあの日、桐生は必ずしもコンディションが万全なわけではなかった。左太腿に違和感があり、出場自体を見送ろうかと考えていたほど。にもかかわらず、本番では力強い走りが実現できた。感覚が残っていれば正確な分析もできるが、なぜあのタイムが出たのか、理由がわからないというのが正直なところのようだ。

 桐生は9秒台を出した後、次の目標が9秒8台であることを公言してきた。その目標にブレはないのだろうか。

「目標タイムは変わらないです。感覚的には近づいてきていると思うし、誰かにムリでしょと言われても、僕の目標は僕が決めるので。確かにまだ9秒台は一度しか出せていないけど、次は9秒8台を目指してやっていく。東京五輪の決勝に残ることを考えると、このタイムは必要なので」

 ふと口に出した言葉は、重かった。

リレーよりも100mに軸足を置く。

 桐生の目標は記録ではなく、あくまでも世界で勝つことなのだ。2020年の東京オリンピックでは100mのメダル、表彰台が常連になりつつある4×100mリレーでは金メダルだって夢ではない。桐生がより軸足を置くのはどちらなのか。

「もちろん、100mです」

 即答だった。そして、続ける。

「四継は100mがあるからやっていることで、もし100mがなくてリレーだけが種目として残ったら、僕は陸上を辞めると思う。リレーも大事だけど、そのために陸上をやっているわけではないので」

【次ページ】 「言ってしまえば遊びですからね」

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