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桐生祥秀が見据える9秒台の先とは。
「究極のかけっこで一番になりたい」
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byYUTAKA/AFLO SPORT
posted2019/08/19 08:00
日本人初の9秒台ランナーとなった桐生祥秀。1年後の東京五輪へ、さらなる高みを目指している。
「栄養面、けっこうな進歩(笑)」
そんな反省を踏まえた上で、桐生はこの冬をどう乗り越えてきたのか。今季の話になると、桐生の舌は滑らかになる。
「まずケガなく入れたことが良かったです。ぎっくり腰になることもなく継続して冬季練習ができた。走り込みもしたかったし、筋トレもしたくて、早めにシーズンを終えたのも良かったですね。去年は余分な脂肪がついているようで、走っていても重たいなという気がしたけど、今年は重くない。使える筋肉が増えたという感じです」
練習拠点である母校・東洋大で行われた公開練習を見ても、接地時間の短い、飛ぶような走りが戻ってきている。肉体も昨年とは明らかに違い、上半身ががっしりし、全体に引き締まった印象だ。体重は1kg増えたが、体脂肪は逆に2%ほど減ったというから、肉体改造の成果が現れてきているのだろう。社会人生活も2年目を迎え、食生活も改善したという。
「朝ご飯をしっかり食べるようになりました。前まではヨーグルトとパンとか簡単なもので済ませていたんですけど、今はしっかり栄養のことを考えてます。威張れることではないけど、僕にとってはけっこうな進歩(笑)。しっかり食べるとやっぱり練習中も元気ですね。お腹が減らないし」
200mの自己記録も6年振りに更新。
食事でケガのリスクが減るならもっと早く改善しておけばとも思うが、裏を返せば桐生にはまだたくさんの進歩の余地が残されているということだろう。
冬季練習をしっかりと積んだ今季は、初戦からキレのある走りを見せつけた。
3月23日、オーストラリア合宿の締めくくりにブリスベンの競技会に出場すると、100mの2レース目で10秒08と早くも去年のシーズンベスト(10秒10)を更新。200mでも自己記録を6年振りに塗り替え、両種目で今秋開催予定の世界選手権の参加標準記録をクリアした。競った相手を最後に振り切った100mのレースは、内容的にも進歩を窺わせるものだった。
「まだ1本走っただけですけど、今年は落ち着いてレースに挑めてます。去年も落ち着いていたけど、落ち着きすぎていて気持ちが全然盛り上がらなかった(苦笑)。ブリスベンのレースは一回抜かれたのもわかっていて、それでも気持ちが空回りすることなく冷静に行けた。久しぶりに走りきった感じがありました」