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約半年のブランクからカムバック。
萩野公介が挑む新しい“体の使い方”。
posted2019/08/10 11:40
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
MATSUO.K/AFLO SPORT
まだ高校3年生だった2012年ロンドン五輪で銀メダルを獲得してから、常に注目を浴び続けてきた。'16年リオデジャネイロ五輪では前年の右ひじ骨折から這い上がって金銀銅メダルをコンプリートした。
萩野公介は、頂点に立ったことのある者だけが見る景色を知っている貴重なスイマーである。その一方で、苦境にも何度も直面してきた選手でもある。リオ五輪後の右ひじ再手術以降に直面してきた自己ベストを取り戻せない時間がいかにもどかしさでいっぱいだったかは、想像に難くない。
栄光と苦しみの両極を知る男が久々にレースに出たのは、8月3日に行なわれた競泳ワールドカップ東京大会第2日(東京辰巳国際水泳場)の男子200m個人メドレーだった。2月16日のコナミオープン以来168日ぶりの実戦復帰でタイムは2分0秒03の3位。目標としていた「インターナショナル標準C」の1分59秒23には届かなかったが、表情はすがすがしかった。
「日本選手だけでなく、海外の選手にも『お帰り』と言ってもらった。水泳ファミリーの一員として気にかけてくれているのだなと感じたし、すごくうれしいです」
ハッキリと気持ちをリセットした。
終始さわやかなムードだった取材エリアで彼が発した言葉には、今までのコメントとはやや毛色の違うものがあった。
「水泳は結果が出ると楽しいし、出ないと苦しいし、結果だけを追い求めると苦しくなる。速く泳げば良いというだけではなく、たくさんの人の支えがあってスタート台の前に立つというレースがあっても良いと思った」
「(技術面で)専門的に考えたら苦しくなったけど、フラットにものごとを考えると、できないことがあっても良いのではないかと思えるようになった」
前者は泳ぎそのもので伝えられることがあるという思いを語ったものであり、後者は、人それぞれが持つ泳ぎの個性の中で最高の技術を備えていこうという考えだろう。生き生きと語る姿には、ハッキリと気持ちをリセットした様子が浮かんでいた。