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新しい地図・稲垣吾郎×車いすラグビー。
日本代表選手が語る、戦略と言霊。
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph byAsami Enomoto
posted2019/08/02 07:00
稲垣吾郎に車いすラグビーの魅力を語った(左から)乗松聖也、倉橋香衣、池透暢。
緻密さのスポーツと感性の演技。
乗松 試合中は、今から5秒後、6秒後にどういうフォーメーションになるのかを瞬時に計算し、「そろそろあの位置に移った方がいいな」とか、常に考えていますね。
稲垣 緻密ですよね。感性ではできない。
倉橋 稲垣さんのお仕事は感性が大切になるイメージがあります。
稲垣 うーん……そうですね、僕の仕事はルールを決めすぎると予定調和になり、つまらなくなる可能性があって。舞台やドラマを何度も経験してくると、自分なりの“型”ができてきて、条件反射で台詞が口から出てくるようになるんですよ。
台本通りにできたからといって、人を感動させられるとは限らないのが難しいところ。演技の仕事は俳優が持っている“型”が外れた、“想定外”のときに面白くなったりもするので、スポーツの世界とはまた違うのかなと思っています。
“ありえない負け方”から立ち直り。
池 “想定外”といえば昨年8月の世界選手権を思い出します。
稲垣 え、そうなんですか? でも見事に優勝されましたよね!
池 もちろん優勝は狙っていたのですが、そこに至るまでの試合で“想定外”が起きてしまって。僕がキャプテンになってから最も悩んだ大会のひとつです。予選リーグでオーストラリアに対して13点差という、この競技ではありえない負け方をしてしまったんです。野球でいうと、10対3とかで負けるイメージですかね。
稲垣 確かに車いすラグビーっていつも接戦で、どの試合も1点差とかで勝敗が決まるイメージがあります。
池 オーストラリアには2カ月前の試合で勝利していて、勝つ気満々だったのでショックも大きかったです。いつも試合後に僕らは必ずビデオを見直して反省会をするのですが、その日に限り、監督から「見るな、忘れろ」と言われました。翌日には決勝進出を賭けたアメリカとの試合が待っていたので、選手に気持ちを切り替えさせるための指示でした。
でも、どうしても僕の中で気持ちを整理することができなかった。悩んだ末に、アメリカ戦当日に選手だけで集まって、みんなで話し合う時間を設けました。そのときに、「日本のチームの良さ」というポジティブな意見をベンチの選手も含めて12名全員に挙げていってもらったんです。そしたら「はい、はい、はい!」って次々手が挙がって。
乗松 そのとき、僕は一番最初に手を挙げたんですよ。後になればなるほど、言うことがなくなりそうで(笑)。「ベンチにいる選手もみんながひとつになって戦うことができる」と言いました。
倉橋 私も最初それを言おうと思ってたけど先を越された(笑)。私は「キーオフェンス」(ディフェンスの選手のファウルを誘う、代表的な戦略)がよくできるチームだ、と話しました。