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自衛隊最強の陸上部、滝ヶ原。
富士山の歴史を継ぐ「軍武両道」。 

text by

千葉弓子

千葉弓子Yumiko Chiba

PROFILE

photograph byKiichi Matsumoto

posted2019/07/23 08:00

自衛隊最強の陸上部、滝ヶ原。富士山の歴史を継ぐ「軍武両道」。<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

迷彩服着用でジープに乗り込み、練習場所の富士山御殿場登山口「太郎坊」に向かう滝ケ原陸上部のメンバー。

部室に掲げられた「臥薪嘗胆」。

 終始穏やかな太田監督の笑顔とは裏腹に、部室には士気を高めるさまざまな言葉が大きく掲げられている。ふと見ると、デスクの奥の壁に3本のたすきがぶら下がっており、そばには紙に書かれた「臥薪嘗胆」の文字が。

「あの3本は、過去3回、富士登山駅伝で負けたときの襷です。絶対に負けるんじゃないぞと、あの時の悔しさを忘れるなと選手を叱咤激励するために残してあります。『臥薪嘗胆』は優勝できなかった年、当時の司令が『賜杯の代わりに』と紙に綴って賜杯が収められるべき棚に飾ったものなんですよ……。あれには、まいったな、と。私らは司令の命令で動く。何度もいいますけど負けられないんですよ(笑)」

 タキガハラの選手たちの並々ならぬプレッシャーを想像した。

訓練と競技を両立するのは至難の業。

 強豪だけに、陸上部に入りたいという志望者は多い。

 隊には東海大学陸上部で一軍だった若手もいる。彼らが憧れるのが、陸上部の絶対的エース、宮原徹だ。宮原は富士登山駅伝での区間賞獲得だけでなく、富士登山競走(山梨県富士吉田で開催)の大会記録も保持し、トレイルランニングやスカイランニングの世界でも活躍している。

 とくに標高差のある山を駆け上る「バーティカル」と呼ばれる種目では、国内最強といわれているランナーだ。

「滝ヶ原に入って宮原みたいになりたいという選手はたくさんいます。大学陸上部の学生と会うこともあるのですが、私はまず自衛官になる意志があるかどうかを尋ねるんです。なぜなら、入隊して最初の半年間は自衛官としての訓練でまったく走れませんから。それでもやりたいという意志があるかどうか、必ず確かめます」(太田監督)

 実際、入部したものの続けられずに辞めてしまう選手は多いという。生半可な気持ちでは自衛隊員とアスリートの二足のわらじははけないのだ。

 陸上部の最優先目標は富士登山駅伝での優勝。元旦に開催される「ニューイヤー駅伝」出場も目標のひとつではあるが(過去に2回出場)、やはり地元・富士山で開催される伝統ある大会が最大のターゲットだ。

「昭和のはじめ、富士登山駅伝では地元の強力(登山者の荷物を背負って案内する人)チームが大活躍したことがありました。いまでも強力さんたちは、富士登山駅伝で我々のサポートをしてくださっています。僕ら陸上部はその人たちの意志も継いで駅伝を走っているんですよ」

【次ページ】 「“戦技”という項目があって」

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