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自衛隊最強の陸上部、滝ヶ原。
富士山の歴史を継ぐ「軍武両道」。 

text by

千葉弓子

千葉弓子Yumiko Chiba

PROFILE

photograph byKiichi Matsumoto

posted2019/07/23 08:00

自衛隊最強の陸上部、滝ヶ原。富士山の歴史を継ぐ「軍武両道」。<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

迷彩服着用でジープに乗り込み、練習場所の富士山御殿場登山口「太郎坊」に向かう滝ケ原陸上部のメンバー。

「“戦技”という項目があって」

 陸上部だけが競技のためのトレーニングに時間を費やすことについて、他の隊員から不満の声が聞こえることはないのだろうか。

「そうですね、それはやはりあります。すべての自衛隊員が体を酷使して訓練をしていますから。でも自衛隊の任務のなかには“戦技”という項目があり、射撃など技を鍛錬する訓練も含まれているんです。そう考えると、陸上競技の厳しいトレーニングは、どんな状況でも困難な任務を遂行する訓練に繋がっているといえます。選手たちは『絶対に負けられない』という大きなプレッシャーと戦いながら、日々練習しているわけですから」

レベルの高さを物語るエピソード。

 滝ヶ原陸上部のレベルの高さを物語るエピソードがある。

 今年の4月、あるランナーが新しく陸上部の一員となった。川崎雄哉だ。昨年8月に長崎県の対馬駐屯地から滝ヶ原に異動、8カ月の訓練を終えて、この春から陸上部に所属している。

 川崎はトレイルランニングの世界で注目を集める新鋭で、2016年秋には国内の強豪が集まる歴史ある大会「ハセツネ(日本山岳耐久レース)」で優勝している。今年6月にはポルトガルで開催された「トレイルランニング世界選手権」にも出場し、日本人1位、総合で23位という成績を残した。

 その川崎が、滝ヶ原の陸上部では富士登山駅伝のメンバーにすらなれないという。川崎が同僚の強さをこう証言してくれた。

「富士山を走ることにかけて、滝ヶ原の選手たちはとんでもなく強いんです。かつて所属していた長崎の部隊では、自分も山の登りにかけてはかなり強い方だったと思うのですが、富士山の登りはまったく別物。チームメイトたちは火山灰の路面にも標高の高さにも慣れているので、僕はまだまだいちばん弱い。どの選手も他の部隊に行ったら、エース区間を走れるくらいの実力です。残念ながら、いまの段階では僕は補欠ですね」

 ハセツネ優勝者が補欠という事実。そのレベルの高さに、あらためて驚かずにはいられない。

 滝ヶ原陸上部への入部がかねてからの希望だった川崎から見て、憧れの部は独特の雰囲気があるという。

「これまでの陸上部では先輩と同じように行動しようというムードがあったのですが、滝ヶ原では先輩後輩に関係なく、各自が自分のスタイルを持っています。もともと陸上で強い選手が多いことも理由だと思います。一緒に練習はしているのですが、個人個人の意識が高いから変に群れない。たとえば若手でも『今日は自分は少し強度を落とした練習にします』と選択したりしています」

【次ページ】 「行軍もトレランに役立っている」

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