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「最高峰のラグビー」のための決断。
決勝の地、日産スタジアムの芝管理。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byYuki Suenaga
posted2019/07/21 11:50
ラグビーW杯決勝の舞台となる日産スタジアムでピッチ管理に携わる青木淳氏(左)と福岡正敏氏。葛藤と戦いながら、大会成功へ向けて全力を尽くす。
種蒔きのタイミングも模索中。
芝生の管理は天候との戦いでもある。今年は梅雨入りこそ例年並みだったものの、7月の日照時間は記録的に少ない。梅雨明けが遅くなりそうだ、との見通しも広がる。これもまた、彼らを悩ませる。
「芝生の生育については、太陽がさんさんと降り注いだほうが生育は進みます。けれど、今年は梅雨らしい梅雨ですからね……」
9月下旬から11月初旬という開催時期も、芝生を管理する立場では難しい選択を迫られる。
「日本のスタジアムは寒地型芝草と暖地型芝草を共用しています。常緑を保つためで、冬も緑にするために寒地型芝草の種を蒔きます。種蒔きのおおよその適期は、日本においては9月下旬から10月なのですが、その期間がラグビーW杯の開催期間に重なってしまいます。前倒しするか、遅らせるか、しかできません。それを逃してしまうと、常緑をうまく出せなくなってしまうのです」
種蒔きを前倒しにすると、残暑にぶつかる。寒地型芝草には過酷な環境で、種から芽が出ても定着しない可能性が高まる。
適期より遅くするとどうなるか。発芽へ至る積算温度が足りなくなってしまい、きちんと発芽しないリスクが増大する。
9月になると暖地型芝草の生育が下降期に入るため、種蒔きをしない選択肢は取れない。ワールドラグビー、組織委員会、横浜市、施工業者とのワーキングチームでの話し合いを経て、今回は8月に種を蒔く予定だ。それもまた、天気予報と毎日の空模様を気にしながら、最適のタイミングを探っていかなければならない。
「芝生が削がれた跡がとらえられてはダメ」
サッカーW杯と五輪とともにスポーツの世界3大スポーツイベントに数えられるラグビーW杯に携わることのできる喜びは、福岡にとって揺るぎのないモチベーションとなっている。ただ、開幕の足音が大きくなるにつれて、彼の胸では管理者としての責任感が膨らむ。
「選手がケガをしない、ピッチに足を取られるようなことがないのは、私たちの仕事では大前提です。力をぶつけ合った激しい攻防はラグビーの醍醐味で、観ている方は芝生が飛ぶぐらいのほうが迫力を感じるかもしれません。
ただ、我々の立場では芝生が削れたような跡が、テレビや写真にとらえられてはダメなのです。現状ではセレブレーションの特性を生かしきれていないのが、とても歯がゆい。もっとできるはずだ、さらに上を目指すんだ、という意識でやっています」