Overseas ReportBACK NUMBER
サニブラウンの隣にいた「あの人」。
記録を支える兄貴的存在への信頼。
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byTsutomu Kishimoto
posted2019/07/02 11:50
サニブラウンと、アントワン“兄貴”。彼の成長には、フロリダ大の存在が大きく関わっている。
「勝つことが一番の目標で、達成できた」
2人は20日に来日し、東京のナショナルトレーニングセンターで時差調整と軽めの調整を行い、25日から福岡入りした。
「全米大学選手権まで日程がハードだったので、これからは疲労をとるだけで十分」と話すように、2人は終始リラックスムードだった。
アメリカでは、練習すべてを細かく管理するタイプのコーチもいるけれど、ホロウェイコーチは自身のコーチ帝王学を普段からコーチ陣にしっかりと伝えているため、今回もメニューを伝えるだけに留まり、細かな問題はアントワンとサニブラウンが相談しながらレースに臨んだ。
「いいレースだった。コンディション、天候を考えるといい結果だった。タイム的には物足りない部分もあるし、もちろん修正点はあるけれど、今回は勝つことが一番の目標で、それは達成できた」
レース後にアントワンはそう振り返った。
予選最低だったリアクションタイム。
「9秒台で走れるコンディションだ」そう話していた。また傍目には『圧巻のレース運び』だったように思えたが、彼らにとっては思い描いていたレースとは程遠かった。
大会初日の100m予選。5組目のサニブラウンはいつも通り、ゆっくりとスタートの姿勢に入った。が、スターターの『セット』からの号砲がアメリカのそれよりもかなり早かった。まだお尻をしっかりとあげきっていない中でピストルが鳴ってしまったため中途半端なフォームからスタートすることに。それでも何とか頭を下げてスピードに乗ったが、ゴール後は腰に手をあてて頭を振った。
10秒30。リアクションタイムは0.212で、予選参加選手中、最低タイム。
「号砲が早いな。準決勝前に修正しないと」
予選後、神妙な表情でアントワンはそう話し、アップ場に戻っていった。
トリートメントを施し、軽食をとった後、準決勝のために再びアップを始めた。
「号砲が早くても対応できるようにスタート練習させた」
普段とは違う間でスタート練習を何度か行って臨んだ準決勝は、大会タイ記録となる10秒05まで記録を伸ばしたが、リアクションタイムは0.180。翌日の決勝は10秒02でリアクションタイムは0.153まで改善された。
「今回は鳴るタイミングに気を使ったので疲れました」とサニブラウン。
2人の顔色には安堵の表情も浮かんでいた。