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サニブラウンの言葉でわかること。
100m走はなんとも緻密な競技である。
posted2019/07/01 18:30
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Nanae Suzuki
多士済々、キャラの立った日本のスプリンターのなかで、サニブラウン(フロリダ大)は図抜けた存在になっていた。
日本選手権、2冠。
100mでは向かい風の中で10秒02、最終日に行われた200mではラストで顔がゆがんでさすがに疲れが見えたが、こちらも優勝してスプリント2冠。9月からカタールのドーハで行われる世界選手権に向け、大いに期待が持てる。
陸上はシンプルな競技だが、長距離には苦しい競技を楽しく語る才に恵まれた関係者が多く(そしてお酒が強い)、スプリンターには独特の言語感覚がある。
中でもサニブラウンは、高校時代からレース直後に映像を見る前に自分の走りを客観的に分析できる力を持っており、100mの奥深さを伝えてくれる。
走ることは、こんなにも繊細だ。
今回の日本選手権でもそうだった。
100mのフェイズごとに彼の言葉を噛み砕いていくと、まずスタートでは、予選、準決勝、決勝と3本ともスタートがうまく行かなかった。
「日本では『セット』からピストルが鳴るまでが早いんですよね。コーチと相談して、腰を早めに上げて対応しようとしたんですが、決勝でも出遅れてしまって」
アメリカと日本では、タイミングがかなり違っていたようで、このあたり、うまくアジャストしていたならば、より満足のいくパフォーマンスが見られていたかもしれない。
スターティング・ブロックを蹴り出して加速フェイズに入ってからについては、準決勝を走った後のコメントが興味深かった。
「スタートしてから顔を上げるクセがあるので、今日も上がってしまいましたかね。決勝では顎を引いてしっかりと加速していけたらと思います」と話していた。
顔を上げてしまうと滑らかな加速力が失われるため、このフェイズでは我慢が必要なのだが、決勝ではそれなりに修正されていたように思う。