“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
千葉の2強を倒し、33年ぶりの全国へ。
日体大柏高校とレイソルの相思相愛。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/07/01 07:00
日体大柏を率いる元Jリーガー酒井直樹監督。強豪2校を倒し、千葉県代表としてインターハイに挑む。
酒井監督が参考にしたリバプール。
インターハイ予選・準決勝の相手が市立船橋に決まると、酒井監督は現実的な戦い方を選手たちに提示した。
「一昨年も昨年も、ボールを保持してから崩していこうとしていた。それでは先手を取られてしまう。リバプールもそうですが、敢えて相手にボールを持たせながらも、隙を狙って一気にひっくり返す。これも試合の主導権を握っていることになる。それを取り入れることで、選手たちのプレーの幅も、戦い方の幅も広がると考えました」
基本布陣は4-1-4-1だが、守備時は2CBの間にアンカーの池上裕隆が落ち、さらに堤祐貴と冨沢翔の2シャドーがボランチの位置に下がることで、5枚と4枚の2ラインでブロックをつくって守る。ボールを奪ったら、左MFの南、右MFの佐藤大斗がワイドに飛び出し、または中央に絞って2シャドーとなり、俊足FW耕野祥護と共にボールの収まりどころをつくって素早いカウンターを仕掛ける。
ベタ引きしながら偶発的な得点が生まれるのを待つのではなく、細かくポジションを調整しながらシステマチックに組織を動かしていく。
このタスクを全員が忠実に遂行した。相手の攻撃をゼロ抑え、この日シュート1本で掴んだ虎の子の1点を守りきり、1-0の勝利。この1点は相手のクリアボールを拾ってから、左サイドバックの吉沢友万が中へドリブルを仕掛け、逆サイドからニアサイドに斜めに走り込んだMF佐藤へクロスを送る形から生まれたもの。「ずっとトレーニングでやっていた形」(酒井監督)であった。
劇的な逆転勝利に柏U-18奥田も涙。
そして続く決勝の流経大柏戦でも、市船戦と同様の戦い方を選択した。2点を先制される苦しい展開となったが、22分にFW耕野のクロスをMF佐藤が合わせ1点を返すと、57分にはゴール前の混戦からまたもMF佐藤が押し込んで2-2の同点に。
しかし、直後の62分に流経大柏に再び勝ち越しゴールを浴びてしまう。
ここまでか、と思われた後半アディショナルタイムに日体大柏はPKを獲得。すると、これを途中出場のFW長崎陸が決め、土壇場で3-3に持ち込んだ。
延長戦でも一進一退の攻防が続き、PK戦突入もよぎった延長後半アディショナルタイム。またもFW長崎が劇的な逆転ゴールを決め、4-3。ついに2強を倒し、33年ぶり2度目のインターハイ出場を手にした。
「選手たちも僕も、あそこまで喜んだことはこれまでなかった。『これが優勝するということなんだ……』と思ったし、スタンドではピッチに立てなかった選手、関係者、柏U-18の子たちも我が事のように喜びを爆発させてくれた。本当にいろんな人に支えられながらサッカーをやれていると感じたし、全員が一丸となって勝利を目指す素晴らしさも味わえた。これが高校サッカーなんだと改めて感じた」
スタンドにいた柏U-18の奥田は涙を流してクラスメイトの快挙を喜んだという。
「みんながあんなに喜ぶ姿を見て『勝ってよかったな』と思った。自分のことのように喜んでくれて、本当に嬉しかったし、日体大柏に来てよかったと思った。みんなが真剣に応援をしてくれる中でサッカーをする喜びと責任を改めて感じた」とキャプテン伊藤も噛みしめた。
自分の選択は間違いではなかったと認識できたことは、2強の壁を突き破ったからこそ見えたものであった。