マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
SBスカウトは「打ちにくさ」を見る。
高橋礼に考えるアンダーの“極意”。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2019/06/13 11:30
188cmの恵まれた体格をいっぱいに使って地面スレスレから放たれる高橋礼のストレートの威力は見た目以上なのだ。
ピッチングは、どこで力を入れるか。
その後大学に進んで、ブルペンでピッチング練習の相手をした中で、2年先輩のアンダーハンドの投手がいた。
この人は、高校のときの相手よりもっと「サブマリン度」がはげしく、左足を踏み込んでテークバックをとって、いざ腕を振ろうという瞬間には、自分の胸が地面にこすりそうになっていた。
北陸の雪深い山間の町の出身の人だった。背は170センチあるかないかでも、ドッシリとしたいかにも「日本人体型」。その代わり、ほぼ180度開脚の前屈で上半身がベタッと地面に密着していた。
「オレのこの柔軟性は、冬の雪下ろしとスキーと、掘り便所のせい」
そう言って笑っておられた。
無口な方だったが、一度だけ、自分のアンダーハンドの極意のようなことを話していたのを覚えている。
「ピッチングっていうのは、どこで力を入れるかで、ボールの力の入り方が変わってくる。剛腕とか本格派っていわれるピッチャーは、スピードを出したいからどうしてもテークバックから力が入りやすい。そうすると初速にスピードが乗りやすい」
球速と打ちにくさは同じではない。
そのアンダーハンドの2年先輩は、どう頑張ったって130キロも出ていなかったろう。当時はまだ、スピードガンなんてものはなかった。
「だからオレは、バッターの手元、つまりホームベースの上でピュッと速く感じるまっすぐを投げたい。そこでバッターを詰まらせるんだ。それにはな……最後のところなんだ。ボールを放す最後の最後で、ピュッとしっかり強く投げる。そのためには、そこまでどれだけ力を抜けるか。アンダーハンドっていうのは、リリースの最後の瞬間までにどれだけ“脱力”できるか……そういう作業だと思うんだ」
当時、私が所属していた大学チームには、スピードガンで測ったら140キロ後半ぐらい軽く出せる投手が3人はいたと思う。
それでも、その130キロも出ないはずのアンダーハンドの2年先輩は、3年春のリーグ戦にはローテーションに入り、秋にはその手元で伸びるように見える速球とスライダーを絶妙なコントロールで両サイドにピシッピシッときめて、気がついたらチームでいちばん安定感と信頼性を持った絶対的な「エース」に君臨していた。