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「天才とお化け」、「山賊に木こり」。
個人戦で見る、セ・パ交流戦の楽しみ方。
posted2019/06/11 12:00
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Naoya Sanuki(3)/Kiichi Matsumoto
プロ野球から20勝投手と三冠王が消えて久しい。投手陣には先発とリリーフの細かな分業制が確立され、打線では絶対的な個人に頼るより、つながりと厚みが求められるようになった。20勝は2013年の田中将大以来、三冠王は2004年の松中信彦以来、出現していない。「個」の時代は終わったのか……。
そんな球界にあって、交流戦というのは個と個のぶつかり合いを堪能できる舞台である。滅多に対戦できない相手に刺激されるのか、ペナントレースの直接のライバルではないという意識がそうさせるのか、ある意味、勝敗を度外視したかのような力と力の勝負が随所に見られる。特にホームランが急増している今シーズンのプロ野球だけに極上の個人戦を期待できそうだ。
※文中の記録は全て6月10日時点
【6月21日~6月23日 巨人対ソフトバンク(東京ドーム)】
その中でも頂上決戦と言えるのが、巨人・坂本勇人とソフトバンク・千賀滉大の直接対決だろう。坂本は21本塁打を放ってセ・リーグの単独トップに立っている。44打点は同3位、打率.320は同3位と、三冠王誕生か、とファンに夢を見させてくれるような活躍をしている。
また千賀も防御率1.46、勝率.857はパ・リーグのトップであり、2位に30以上もの差をつけて独走している奪三振を合わせれば投手三冠の地位にいる(勝利数は6勝で同2位)。千賀がローテーション通りにいけば、6月21日の巨人戦に登板する可能性が高く、ともに三冠を狙えるスター同士の戦いが見られることになる。
坂本と言えば「内角打ち」と表現されるように、打者の永遠の課題ともいわれるインコースの速球に対し、左肘を抜きながらインパクトできるという独特の技術を持っている。「小さい頃から何となくできていたんです」という天才肌の打者は、昨シーズンからはアウトコースを右方向に打つようになり、さらに今シーズンは長打力まで加わったのだから、無双状態というのもうなずける。
一方、千賀もやはり「お化けフォーク」という代名詞を持っている。ただ、落差が大きく、切れ味抜群のこのウイニングショットを支えているのは、中指がボールの真ん中にくるように握ることでスピン量を増やすという独特のストレートだ。今シーズンの開幕戦では自己最速の161kmをマークし、9年目での進化を示した。この快速球を打者のインコースに投げ込んでおいて、最後はフォークで空振りを取るというのが必勝パターンだろう。
一流選手でも「あれは真似できない」と語る天性の内角打ちができる坂本に対し、千賀がインコースへ自慢のストレートを投げ込んだ時、どんな結果が待っているのか。3時間から4時間というゲームの中で、この2人の、その1球をじっと待ってみるのも贅沢な楽しみ方かもしれない。