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SBスカウトは「打ちにくさ」を見る。
高橋礼に考えるアンダーの“極意”。
posted2019/06/13 11:30
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Kyodo News
8日、ソフトバンクの2年目アンダーハンド・高橋礼投手が、セ・リーグ首位の広島カープ戦に先発。7回を2点に抑えて6勝目をあげた。
6月に入って交流戦が始まっても、投げればほとんど勝ちのありがたい“流れ”は変わらないようだ。
高橋投手が勝って新聞の大きな見出しになるたびに、思い出す話がある。
自分の学生時代のことだ。
私は高校時代、アンダーハンドの投手とバッテリーを組んでいた。
アンダーハンドなら都内でも1、2と言われ、膝と股関節、足首が“軟体動物”だったから、身長のわりに大きく踏み込んでグッと体を沈ませて、文字通り「潜水艦(サブマリン)」みたいな姿勢で腕を振っていたから、ボールを持った右手の甲をよく地面にこすって擦りむいていたものだ。
「物理的にボールがホップするなんてありえないってよく言うけど、あれはオーバーハンドのことで、アンダーは下から上に向かって投げるんだから、ほんとにホップしてるんだ」
都内1、2のアンダーハンドは、よくそう言って鼻をふくらませていたが、一方で学年でも1、2の学業成績を誇るヤツだったので、きっとそうなんだろうと思って聞いていた。
「だって、オレが地面の高さから投げて、しゃがんでるお前の胸とか顔の高さにきまったら、ホップしてるに決まってるじゃないか」と、オレは一度も間違えたことがないみたいな顔で笑っていたが、捕手の私としては、そんな理屈よりバッターがなかなか打てないボールを投げてくれれば、それでよかった。
下から上に動くものは見慣れていない。
そんな彼が、あるときこんなことを言っていた。
「アンダーハンドは得なんだぜ」
その理由がなかなか面白かった。
「バッターが高さを間違えてくれるんだ。高さを間違えるから、打ち損じになるんだ。世の中に、上から下に落ちてくるものって、いろいろあるだろ。雨でも雪でも、上から下に向かって動くものを見るのは慣れている。だから、オーバーハンドのボールはちょっとぐらい速くても、そのうち打たれるんだ。
でも、下から上に浮き上がってくるものって、考えてみたらなかなかないんだよ、世の中に……。だから、アンダーハンドのボールの動きは見慣れていない。たいしてスピードもないのに、オレのボールがなかなか打たれないのは、そこんとこだと思うんだ」