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最終節までもつれたセリエAのCL争い。
地方クラブの星、アタランタが初切符。 

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弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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posted2019/05/30 17:30

最終節までもつれたセリエAのCL争い。地方クラブの星、アタランタが初切符。<Number Web> photograph by Getty Images

クラブ史上初のCL出場を決め、サポーターと喜び合う選手たち。育成力と2016年から指揮を執るガスペリーニの哲学が融合した。

ユースには「買ってきた選手はいない」

 イタリア・サッカー界で“育成の父”と呼ぶべき人が、アタランタにいた。

 先月23日、御年83歳で亡くなったミーノ・ファビーニさんだ。

 5年前の今頃、ブラジルW杯でイタリア代表を率いたチェーザレ・プランデッリ監督について、恩師にあたる彼に話を聞く機会があった。

 あの名将マルチェロ・リッピが若い時分にサンプドリア育成部門のかけ出しコーチだった頃、どれだけ気弱な青年だったかとか、バルセロナのサッカーを敬愛しているとか、まるでどこかの山村の長老みたいなファビーニさんは物腰柔らかく、面白い話をたくさんしてくれた。

 育成王国アタランタの土台を築いた彼に「アタランタが大事にしていることって何ですか?」と尋ねたら、急に20歳も30歳も若返ったように、彼の滑舌がすっと明瞭になった。

「我々のユース部門にはね、よその州やクラブからわざわざ買ってきた選手はいないんだ。自分たちで手がけたり、提携している地元のスクールから推薦された地域の子供たちを育てる。これはとても大事なことだ」

 インテルやユーベの育成部門は、中学卒業と同時に移籍金を払って全国各地から獲得された選手ばかりだ。日本でいうと高校スポーツ界の“越境入学”が近いかもしれない。

 アタランタでプロになれなかった者には、クラブと歩む人生が残されている。地域に残り、大人になり、クラブのサポーターとなって、子供をスクールに入れる。規模や徹底度の差はあれど、そんなクラブがヨーロッパ中に無数にある。

平日開催のカップ戦にも2万人以上。

 今月15日、アタランタはラツィオとのコッパ・イタリア決勝戦に挑んだ。0-2で完敗し56年ぶりの戴冠はならなかった。

 首都ローマでの試合は平日水曜の夜だった。往復900kmの距離をものともせず2万2000人が決戦にかけつけた。

「シーズンの間、俺たちの背中を押し続けてくれたファンに感謝したい。今夜は本当にベルガモで戦っているみたいだった」

 最終節を終えたFWイリチッチは、CLに出られることの実感がまだわかないと言った。

 CL出場とシーズン通算103得点という金字塔を打ち立てた英雄たちには、ベルガモでの祝賀パレードと移籍市場が待っている。

 市場評価額が高騰している選手たちにはオファーが殺到するはずで、小さなクラブにとっては数十億円単位の大きな商機だ。ペルカッシ会長はCLという大舞台に向けた戦力維持との間で随分と悩む夏になるだろう。

【次ページ】 プロビンチャーレの夢を乗せて。

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