球体とリズムBACK NUMBER
浦和vs.湘南、山根視来の劇的ゴール。
あの時あの位置にCBがいた理由。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byJ.LEAGUE
posted2019/05/24 17:00
J史上に残る劇的な一戦で、渾身のガッツポーズ。山根視来は一躍ヒーローとなった。
攻めきれるだけの体力が残っていた。
「まず隆くん(野田隆之介)に収まりそうになった時、真ん中にスペースがあったので、そこに走っていったんです」と山根は振り返る。
「その時は相手ボールになったけど、後ろにはけっこう人数がいたし、ここでまた攻撃に切り替わったらチャンスだなと思って。あと前線の選手が強度の高い動きを続けてきただけに、終盤はちょっと辛そうで。
自分にはまだ攻めきれるだけの体力が残っていたので、後ろは味方に任せてあの位置にいました。そしたら本当にボールが来て、(松田)天馬が前を開けてくれ、右の大外には(古林)将太くんも上がって来てくれて。だからこそ、相手が僕に寄せきれなかったんだと思います」
大卒4年目の元サイドアタッカーはそう謙遜するが、このDFの大きな持ち味のひとつにボールを運ぶ力がある。
以前、曹貴裁監督に彼を最終ラインで起用する理由を尋ねたところ、「あいつをあそこで使うのは、たぶんオレぐらいだろうね。いいアクセントになっていると思うよ」と返答。それは昨春のことで、当時のチェルシーのアントニオ・コンテ監督が3バックの一角にセサル・アスピリクエタを起用し、イングランド代表のガレス・サウスゲイト監督が同じ位置にカイル・ウォーカーを配していた時期と重なる。
2人とも典型的なCBではなく、ドリブルやクロスを身上とする攻撃的なSBだ。
試合終盤に発動する“秘密兵器”。
現代のトップレベルの最終ラインには、大きくて強くてボールを跳ね返すことだけが得意なDFの居場所は、もはやない。4枚でも3枚でもそれは同じだ。リバプールをはじめ、欧州のエリート戦線も欠かさずにフォローしている曹監督は、きっと最後尾に攻撃の武器を隠し持つつもりで、山根をそこに置いているのではないだろうか。
その秘密兵器がもっとも効果を発揮するのは、試合終盤となる。先週末の浦和戦と同様に、昨季の第6節・鹿島アントラーズ戦でも、文字通り試合終了間際に決勝点を奪っているのだ。おそらくそれは偶然ではない。