“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
大分生まれ、浦和育ち、湘南で還元中。
梅崎司にとって古巣戦は「幸せ」だった。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/05/25 11:00
湘南で2年目のシーズンを送る梅崎司。古巣・浦和戦では0-2の劣勢の中でも献身的なプレーで大逆転劇を呼び寄せた。
「昔ならやっていたな」
左サイドタッチライン際の位置から縦のスペースに走り込んだ梅崎へ浮き球のパスが届く。梅崎はそれを相手DF2人の間に体をねじ込むように胸トラップし、ボールを前に出して加速した。しかし、体を寄せていた大分MF長谷川雄志の前に入り込むことができず、外に押し出される形でボールに触ることができなかった。
だが、ラインギリギリに残ったボールを、カバーにきたDF杉岡大暉が拾い、中央へ折り返すと、ニアサイドにいたFW山崎凌吾がすかさず狙う。これはDFにクリアされたが、こぼれ球をMF松田天馬がシュート。山崎がコースを変えるが、相手GKのファインセーブに阻まれた。
梅崎をきっかけに決定機を生み出したが、この時、彼の脳裏にはある光景がフラッシュバックしていた。
「昔の俺なら胸トラップをして、そのまま相手の懐に潜り込んでいたなと思ったんです。ボールを前において、頭をねじ込んで、体をねじ込んで、相手の懐に入って、前(のポジション)を取るドリブル。それを昔ならやっていたなと」
蘇った大分時代のワンシーン。
大分時代の'06年、J1第12節京都サンガ戦でのプレーだった。当時19歳の梅崎は、0-0で迎えた56分のカウンターの場面。ゴール前のスペースに猛然とダッシュすると、左サイドのDF根本裕一(現・鹿島アントラーズつくばジュニアユース監督)からクロスが届く。梅崎は相手DFと競り合いながらそのボールに反応すると、目の前でバウンドした難しいボールを胸トラップし、前に大きく出て加速した。
競り合ったDFを一気に振り切ると、カバーにきた相手DFに対し、体をねじ込むように前進し、ボールに到達。思わず相手DFが背後から倒し、PKを獲得した。これをFW高松大樹(現・大分市議)が決めて、先制。さらにこの試合では、梅崎が決勝弾を決めて、2-1の勝利。19歳が勝利の立役者となったのだった。
「根本さんのパスを胸トラップして、ドリブルで侵入して、PKをもらった。そのシーンが鮮明に蘇ったんです。でも、現実は逆に体を入れられて相手に奪われてしまった。
『昔の俺だったら、絶対にあそこで相手の前に入って、振り切っていたな』と。なんか悔しいな……と思ったんです。チャンスにはなったんですが、自分は相手に奪われてしまった。もっと前への意識、縦への意識、そこに迷いなくプレーをしたい。あの瞬間でバーっと俺の頭の中で浮かび上がったんです」