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4年前までアマ、今はJ1で得点王争い。
大分のエース藤本憲明は動かない。
posted2019/05/29 10:30
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
J.LEAGUE
Jリーグは世界一予想が難しいリーグだ。
優勝候補が降格したり、ガンバ大阪や柏レイソルが昇格即優勝するのを目の当たりにすると、もうなにが起きても驚かなくなる。
とはいえ今季もサプライズがあった。昇格組の大分トリニータが上位争いを繰り広げるとは、いったい誰が予想したか。
もちろん、私も予想できなかった。J2を2位で勝ち抜いた昨季の戦いは、たしかに印象的だった。GK高木駿も含めた最終ラインからの緻密で効率のいい組み立てと、局面での人数をかけた崩しによって、リーグ最多の76ゴールを叩き出した。
とはいえ、J1となったら話は違う。完成度が高いといっても、外国人選手が大幅に増加したJ1では戦力は大きく見劣りする。J1に残留できただけでも御の字――。これが私の見立てだった。いやはや、的外れでした。
動かないストライカー、藤本憲明。
大分の躍進を語るとき、見逃せないのが片野坂監督の手腕だろう。J3にいた大分をわずか3年でJ1に導き、J1でも中身のともなった試合をして勝ち点を積み上げている。
選手個々に目を移すと、7ゴールで得点ランク首位タイに立つFW藤本憲明の活躍が光る。彼は5月12日の湘南ベルマーレ戦で決勝点を決めたが、この試合を現地で観戦した私は、「なるほど」とひざを叩いた。
試合中、藤本を凝視していて、大きな特徴があることに気がついた。それは動かないということだ。
Jリーグの多くのストライカー、とくに日本人ストライカーは、つねに忙しく動いている。前線から精力的にプレッシャーをかけ、押し込まれたら自陣に引き、サイドに流れて味方を助ける――。
動きまわるストライカーを見慣れていた私の目に、藤本は異質に映った。
湘南3バックの中央を守る坂圭祐の前から、あまり動こうとしないのだ。一度、前線の左サイドにロングボールが蹴り込まれたが、いちばん近くにいるというのに追う素振りすら見せなかった。これも動かないのか……と私はなかば感心した。