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「抑えたら、何だっていいんですよ」
上原浩治はいつもそう言っていた。 

text by

ナガオ勝司

ナガオ勝司Katsushi Nagao

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posted2019/05/23 11:30

「抑えたら、何だっていいんですよ」上原浩治はいつもそう言っていた。<Number Web> photograph by AFLO

2013年にはワールドシリーズ優勝投手になった上原浩治。その日も彼はきっと、ただ勝つためにマウンドに向かったのだろう。

なぜあんなに過激なハイタッチを?

 上原の記録については方々で語られているだろうから、ここではあえて書かない。

 シンプルに言ってしまえば、突出した制球力とそれに裏付けされた奪三振と与四球の比率。しかし、それをチームの勝利のために使えなければ、彼はいつも、不機嫌だった。

「勝ったらいいんですよ、チームが勝ったら」

 冒頭の「抑えたら、(内容は)なんだっていい」や「ゼロだったらいい」と同じ意味合いで、そのフレーズもよく使われた。

 だから、投手・上原浩治にとっての究極の喜びは「自分が抑えて勝つこと」にあったと思うし、それが発露するのがマウンド上であり、マウンドから降りる時の派手なガッツポーズや、チームメイトが「そこまでやるかっ?」とたじろいでしまうようなダッグアウトでのハイタッチだった。

 彼がマウンドやダッグアウトの中で感情を露わにする様は、まるでそれまで張り詰めていた気持ちが弾け飛んだような感じだった。

いつも「必死」に見えた上原。

 その嬉しそうな姿とは対象的なほど、マウンド上で打者と対峙している時の彼はいつも、苦しそうな表情をしていた。

 投手と打者が真剣勝負をするのは当たり前のことだが、大げさな表現の「真剣」がその言葉に普通に組み込まれているように、彼はいつも「必死」だったのではないか。

 本当はそんなに頑張りたくないのに、とてつもなく多くのことを我慢しながら、「抑えるか、打たれるか」という一瞬の出来事のために、すべてを捧げていたからではないか。

 ワールドシリーズ優勝に上り詰めたシーズン半ばでさえ、「今でも先発に対する憧れはある」と言っていたほどだ。他の多くの人々と同じように、彼もまた、思い通りに人生を生きられない時を過ごしてきたのではないか――。

【次ページ】 敬意に満ちた田澤から上原への言葉。

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上原浩治
田澤純一

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