Jをめぐる冒険BACK NUMBER
多摩川クラシコ伝説の殴り合い。
中村憲剛も呆然、FC東京の大逆襲。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJ.LEAGUE
posted2019/05/11 10:30
この対戦カードが正式に『多摩川クラシコ』と命名される前の一戦だったが、壮絶な撃ち合いは両サポーターにも印象深いだろう。
ジュニーニョの退場が分岐点に。
ところが、である。後半8分、ペナルティエリア内でシミュレーションを取られたジュニーニョに、この日2枚目のイエローカードが提示される。アウェーチームは10人での戦いを余儀なくされ、ここから雲行きが怪しくなるのだ。
すかさずFC東京のベンチが動く。後半9分に石川直宏に代えて鈴木規郎、後半17分には梶山陽平に代えて宮沢正史、後半23分には戸田に代えて平山相太と、畳み掛けるように刺客を送り出し、勝負をかける。
それでも、まだ2点差。川崎としては前線にひとり残し、攻勢を強めるFC東京の喉元にナイフを突きつけるような試合運びができれば問題ないはずだった。しかし、カウンターの急先鋒であるジュニーニョはすでにいない。
ベンチにはスピードが武器の黒津勝が控えていたが、関塚隆監督が採った策は、身長184センチのセンターバック佐原秀樹と身長181センチのストライカー鄭大世を投入し、守りを固めてセットプレーにワンチャンスを見出す、というものだった。
試合終盤、魔物が目を醒ます。
こうしてピッチ上には、執拗にサイド攻撃を繰り返すFC東京と、必死にクロスを跳ね返す川崎という構図が描かれた。アウェーチームは辛抱強く守っていたが、後半38分にこぼれ球を平山に頭でねじ込まれると、スタジアムのボルテージが一気に上がり、いよいよ魔物が目を醒ます。
スコアはついに4-3。その1分後には、ジュニーニョに続いてマルコンも2枚目の警告で退場となる。ふたり少なくなった川崎は、鄭大世までもが守備に奔走するはめになり、FC東京の猛攻に歯止めがかからなくなった。
アディショナルタイムは、6分。川崎は後半45分に谷口に代え、センターバックの井川祐輔を投入してさらに守りを固めるが、サポーターの大歓声に押されたFC東京の勢いは止まらない。
今野泰幸が、藤山竜仁が、徳永悠平がこぼれ球を拾っては、これでもかとばかりにクロスを放り込む。
息つく暇もない危機的状況と、背後に陣取る青赤の集団が作り出す異様な雰囲気が、川崎の選手たちから冷静さを奪い取る。
ペナルティエリア内には、川崎の選手たちが何人もいた。ほとんど全員と言えるほどの人数がゴール前に張り付いていたが、クロスを跳ね返すのに精一杯で、マークを確認する余裕すらない。