Jをめぐる冒険BACK NUMBER
多摩川クラシコ伝説の殴り合い。
中村憲剛も呆然、FC東京の大逆襲。
posted2019/05/11 10:30
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph by
J.LEAGUE
スタジアムには魔物が棲んでいる――。
使い古された言い方だが、そう表現するしかないような試合だった。少なくとも、敵地に乗り込んだ川崎フロンターレのチーム関係者、サポーターはそう感じたことだろう。あの日、雨に濡れた味の素スタジアムには、たしかに魔物がいた、と。
翌年から「多摩川クラシコ」と冠されることになるこのカード。当時、「川崎山脈」と呼ばれた長身3バックを束ねていた寺田周平はのちに、最も印象に残るFC東京戦として、このゲームを挙げている。
「味スタが異様な雰囲気に包まれて、FC東京の勢いを止められなくなった。あの試合は本当にショックでした」
この年、FC東京はシーズン途中でガーロ監督を解任し、中位をさまよっていた。一方、J1復帰2年目の川崎はシーズン開幕から首位を快走。この頃には少し息切れをしていたものの、前節終了時点で3位と、まだ優勝を狙える位置にいた。
2006年11月11日のJ1リーグ30節は、そんな状況でキックオフを迎えた。
4-1で勝負は決した、はずが。
先制したのは、川崎だった。ボランチながらシーズン10点目となる谷口博之のゴールで前半7分に先手を取ると、7分後にルーカスにゴールを許して追いつかれたが、我那覇和樹、ジュニーニョのゴールで突き放す。後半開始早々にカウンターから抜け出したマギヌンのゴールで4-1としたときには、勝負が決したはずだった。
この頃の川崎のスタイルは、現在とは真逆だった。3バックが身体を張って守り、中村憲剛の一撃必殺のスルーパスからジュニーニョがゴールを陥れる、堅守速攻のスタイル。相手が前がかりになればなるほど、鮮やかなカウンターを炸裂させたものだ。
だから、後半6分に戸田光洋のゴールでFC東京が2点差に迫っても、川崎の勝利は手堅いように思われた。