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14年続けた体操のお兄さんを卒業。
よしお兄さんが子供たちに貰った物。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byKiichi Matsumoto
posted2019/04/28 10:00
中学時代から得意だったという変幻自在の変顔。『ブンバ・ボーン!』では当初は振り付けになかったが、途中から取り入れてすっかりお馴染みに。
代名詞『ブンバ・ボーン!』の誕生。
数々の楽曲に接し、踊ってきた中で新鮮な喜びを教えてくれたのは、就任2年目の2006年4月の月の歌「ぼよよん行進曲」だった。コンサートを重ねるにつれ、「ぼよよよ~ん」という歌詞のところで、親が子供を一斉に抱え上げるのがいつしか定番となった。
「最初はなかったそういうものが生まれていく瞬間を見ていたから、楽曲1つでこんなに盛り上がって、みんなが変化していくんだとすごく鳥肌が立った記憶があります」
スタジオで子供に泣かれたり、「起こる事件もハプニングも毎日違った」と成功だけでなく反省するような経験もたくさん積み重ねた。そのうえで就任10年目に制作段階から携わってできた新しい体操が、代名詞ともいえる『ブンバ・ボーン!』である。
歌詞の選定にも関わり、振付師の決めた動きに対して、体操のお兄さんとしての視点からいくつか遊びの動きも提案していった。
「子供は変な顔をしたら笑うし、ジャンプをするとテンションが上がる。街中や体育館で子供が何をするのか見ていると、とりあえず走り出す。子供たちにとっては、走ることは一番楽しいんだなと考えていた。だから体操の中にも絶対に入れたかったんです。それ以外に座って何かをしたり、体を縮めて大きく広げる運動も組み込むようにしました」
ただし、激しく動くだけでは子供たちの体操としては十分ではない。
「走ることが好きでも、その安全性まで考えなきゃいけない。だから体操の構成では、いきなり走るのでなく、まず動く方向を示して歩いてからスタートする。そうすると逆走する子供が減るんです」
確かに『ブンバ・ボーン!』の中では、ぐるぐると走り出す前にまず歩く動きが入る。加えて小林はあまり動かない子供をリハーサルのうちにしっかり見極めて、衝突しないようにさりげなく他の子供たちからブロックすることも心掛けていた。お兄さんとしては熟練の領域である。
その瞬間、まるで紅白の主役に。
周囲を見渡すそうした視点が思わぬ形で生きたのが昨年の紅白歌合戦だった。たくさんの出演者が歌い踊る場面で、小林は松田聖子の真後ろで『ブンバ・ボーン!』の中にあるオカピのポーズを決めた。
「あの時はちょうど自由に動くパートだったんです。みんな激しく動いて! という感じだったので、逆に止まってみようと思ってオカピをやったんです。そうしたらまんまとカメラに映ってしまった」
通い慣れたNHKホールであっても、おかあさんといっしょのファミリーコンサートと紅白ではまるで勝手が違ったはずだが、その一瞬だけは、画面上ではまるでよしお兄さんが主役のような存在感だった。