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14年続けた体操のお兄さんを卒業。
よしお兄さんが子供たちに貰った物。
posted2019/04/28 10:00
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by
Kiichi Matsumoto
朝7時30分、毎朝起きていた時間にハッと目が覚めて思う。
「今日はなにをするんだっけ。そうか、もう今までとは違うんだった」
電車ではついつい乗り換えを間違えてNHKのある渋谷に向かってしまいそうになる。
「渋谷じゃなかった。えっと、今日は虎ノ門に行くのか」
小林よしひさが14年務めたNHK Eテレの子供番組「おかあさんといっしょ」の体操のお兄さんを卒業してから、もうすぐ1カ月が経とうとしている。2月に体操のよしお兄さん、身体表現のりさお姉さんの3月いっぱいでの卒業が発表になると、主に小さな子供のいる家庭で、というか小さな子供のいる家庭のみで、大渦の反響を巻き起こした。それは“よしお兄さんロス”を危惧する親たちの嘆きだったかもしれない。
しかし、否応なく4月は訪れた。よしお兄さんは画面に現れず、新しいお兄さんとお姉さんが登場した。順応の速い子供たちはもう新しい体操の振り付けを覚えつつある。
番組を卒業した小林は、すでにバラエティーやラジオなどに活躍の場を移している。ただ、環境は変わっても、14年間の活動で体に染みついた生活リズムだけはまだちょっぴり残ったままである。
「せっかくだから」でオーディションへ。
就任当初、小林はこんなに長く体操のお兄さんを務めるとは思っていなかった。そもそも体操のお兄さんになることすら想像していなかった。
体操との出会いは小学3年生の時。地元の体育館での体操教室に通い始めた。アクロバティックな難しいものではなく、マット上ででんぐり返しをするような楽しい遊びの場。それが小林にとっての体操だった。
並行して剣道もしながら中高では剣道に打ち込んだ。再び体操と密に触れ合うようになったのは日体大に入ってからだった。
「日体大を選んだのは剣道や、自分の体をどう鍛えるか研究したかったから。そういう勉強ができる部活はないかと探していて、トレーナー研究会などもあったけど、まだ自分の体は現役で動けると思った。動かしながら体を動かすことを学べるのは体操部だなと思った」
この体操部とは、五輪メダリストを輩出している体操競技部と異なり、集団での身体表現を披露する部活動のことである。地元の教室の先生も同部出身だったことを思い出し、「縁を感じた」と入部を決めた。4年生では主将も務めた小林は、卒業後は学内の体操研究室に入り、期限付きの助手をしながらコーチをしていた。
「この時も別に体操の指導で生計を立てるという感覚はなくて、公務員を目指して、アフター5の時間に子供たちや高齢者向けの体操をやろうと思っていた」
そんな頃にNHKからオーディションの話が、小林にではなく、体操部に入ってきた。歴代のお兄さんには同部出身者が多かったからだ。教授にせっかくなら受けてみればと勧められて「いいんですか。じゃあ、せっかくだから」という程度の気持ちで受けてみたら、小林が合格したのだった。