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14年続けた体操のお兄さんを卒業。
よしお兄さんが子供たちに貰った物。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byKiichi Matsumoto
posted2019/04/28 10:00
中学時代から得意だったという変幻自在の変顔。『ブンバ・ボーン!』では当初は振り付けになかったが、途中から取り入れてすっかりお馴染みに。
歌も踊りも演技もゼロからのスタート。
いざ体操のお兄さんになったものの、歌も踊りも演技も下地のない状態からのスタートである。最初のコンサートではリハーサルの段取りも分からず、すべてをイチから学んでいった。
まずは舞台上を右から左へと歩いてみる。「ちょっと歩いてごらんと言われてもぎこちなくなる」。次はセリフを言いながら歩く。その次は決まった地点まで歩く間にそのセリフを言ってみる。一事が万事、そうした基礎基本の練習からだった。
「もう記憶にないぐらいに、いろいろ教わって頭がパンパンでした。急激に商品化されたみたいな感じですよね。でも素人だからこそ図太く開き直ることもできた」
現在の小林がお兄さんの大ベテランであるように、小林の新人時代にはひろみちお兄さんこと佐藤弘道という12年務めた大先輩がいた。そのあとを引き継いで自分が認めてもらえるのか。
「ひろみちお兄さんはどこ?」
初めてのスタジオ収録では、子供たちから「今日はお兄さん違うね」「ひろみちお兄さんはどこ?」「あの体操はやらないの?」と遠慮のない質問を浴びたという。しかし、その不安を解消してくれたのもまた子供たちだった。
収録前には集まった子供たちとできる限りコミュニケーションをとる。本番に向けて、慣れない環境に対する警戒感を解きほぐすためである。
「ひろみちお兄さんいないねえ。でも大丈夫だよ、今日はお兄さんがみんなと一緒に遊ぶからね」
そう声をかけて新しい体操を教え、一緒に歌を歌っているうちに子供たちはまだ見慣れない小林にもすぐに打ち解けてくれた。「ああ、これでいいんだ」と少し気負いが消えていったという。
ひろみちお兄さんは体操部の先輩でもある。卒業時など折に触れてアドバイスをもらってきた。
「なぜかすごく記憶に残っているのは『ひげを剃れ』っていうこと。常にきれいにしておきなさいと。やっぱりひげというのはお兄さんのイメージにはないもので老けて見えると言われました。それはすごく最初の頃だったなあ。そうか、“お兄さん”というのはそういうことなんだと思った瞬間でした」