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鳥栖の守護神・大久保択生は
「失点」の恐怖を乗り越えた。 

text by

安藤隆人

安藤隆人Takahito Ando

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photograph byTakahito Ando

posted2019/04/04 11:00

鳥栖の守護神・大久保択生は「失点」の恐怖を乗り越えた。<Number Web> photograph by Takahito Ando

鳥栖の正守護神として第5節までリーグ戦全試合に出場する大久保。チームとともに調子も上向きだ。

転機となったFC東京への移籍。

 '16年はリーグ全試合出場を達成し、翌年に自身初のJ1となるFC東京へ完全移籍を果たした。

「FC東京へ移籍したとき、『2番手』の位置づけは分かっていました。控えであっても、2番手であればJ1の試合に出るチャンスは高まるし、そこにいないことには試合に出ることもできない。J1のチームから初めてオファーをもらったことで、割り切って進むことができた」

 FC東京では元日本代表のGK林彰洋の控えGKとして、リーグ戦出場は2年間で10試合。「絶対的2番手」として過ごしたこの2年間は、彼にとってとてつもなく大きな意義と価値を持つ時間となる。

「ジョアン・ミレッGKコーチとの出会いによって考え方が整理されたし、自分の中で明確になったんです」

 ジョアンは大久保がFC東京に加入した'17年にGKコーチに就任すると、独自の理論で技術面だけではなく、精神面でも徹底した細かい指導を施した。技術的な部分はまた別の機会に触れようと思うが、大久保にとって精神的な部分でハッとさせられることは多かったという。

ジョアン・ミレッの言葉。

「GKは答えのないポジション。その中で失点する可能性を少しでも減らすためにどうするかを考えさせられるコーチでした。はっきりと良い悪いを教えてくれた。点を獲られたことよりも『獲られ方』に意識を向けるようにと。

 例えば、10回のうち8度はセーブできるようなシーンで失点をしたとしても、『その2回が、たまたま今なんだな』と開き直れるようになった。ポジショニングやステップは間違っていなかったけど、今回は決められてしまった、と考える。考え込むことで奪われてしまう時間をより有効的に使えるようになった」

 この言葉だけを伝えると、「その考えはダメだ」とか思う人もいるかもしれない。だが、GK経験者でもある筆者は非常に正しく、重要な考え方だと共感する。以下の言葉は大久保が常にジョアンに言われたものだ。

「絶対ゼロに抑えきれるGKなんてこの世にいないわけなんだから、点を獲られても自分がやるべきことをきちんとやっていれば、それはポジティブな失点。逆にそれで消極的になったり、簡単な技術ミスでやられた時は、それは悪い失点だ」

【次ページ】 「失点しないGKなんていない」

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