“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
鳥栖の守護神・大久保択生は
「失点」の恐怖を乗り越えた。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/04/04 11:00
鳥栖の正守護神として第5節までリーグ戦全試合に出場する大久保。チームとともに調子も上向きだ。
「失点しないGKなんていない」
GKにとって、万全を尽くしても防げないシュートやシチュエーションはある。超人的な身体能力を手に入れないと防げない失点は多くある。そこに頭を使って悩み、自分を見失うことよりも、自分がやれることを増やすことや、止めるべきシュートを確実に止められるようにする方に意識を向けた方がよほど有効的であり、精神的な負担も少ない。
その見極めこそ、経験と知識の積み重ねであり、努力の成果なのだ。そうした客観性を持つことが、「失点」の恐怖で苦しめていた自分を解放することになる。
「常に結果を出さないといけない立場にいるのは分かっていますが、安定した技術を出すことが1番だと思うようになった。『GKが良ければ点は取られないよ』、『GKが点を取られなければ負けないから』という言葉は、実は凄く無責任で、不可能なこと。世界中どこを探しても、絶対に失点しないGKはいないんです。若い選手や経験が浅い選手はそこに追い詰められてしまう傾向がある。
極端に言えば、中学生や高校生にシュートを打たれても決められてしまうことだってあるんです。それを全員でどう守るかという部分にフォーカスを当てていかないといけない。失点した瞬間に試合終了じゃないし、まだプレーは続くわけですから。パッと切り替えられないと」
鳥栖から届いた信頼のオファー。
プロとして歩んだ紆余曲折の経験、そしてFC東京でのライバル関係、コーチとの師弟関係を築いた2年間が、彼を「失点」という名の恐怖から解放し、深い思考で自分自身を見つめられるようになった。
だからこそ、鳥栖は彼に熱烈なラブコールを送ったのだろう。チームは開幕戦から不動の守護神として全幅の信頼を置いている。
開幕戦の名古屋戦は4失点を喫し、チームもそこから連敗を強いられたが、これはカレーラス新体制となって試行錯誤している最中の結果。第4節の磐田戦では完封し、初勝利に貢献。続くアウェーの横浜FM戦では何度もビッグセーブでピンチを防ぎ、2試合連続クリーンシート。大久保自身もチームの変化に手応えを感じている。
「守備の部分で軽率なミスが少なくなってきたし、相手に軽率にビッグチャンスを与えてしまったことがなくなった」
チームと大久保の調子は上向きつつある。